太陽コロナを効率的に加熱するマイクロフレア

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太陽コロナで頻発する小規模な爆発現象、マイクロフレアは、通常のフレアとは異なるエネルギー解放機構を持つことが、多波長での観測で示唆された。

【2022年7月8日 JAXA宇宙科学研究所

太陽面で起こる爆発の一種・マイクロフレアは、通常のフレアと比べて解放されるエネルギーが約6桁も小さい。近年の観測と研究によると、マイクロフレアは頻発していて、太陽の上層大気であるコロナにエネルギーを供給し、500万度を超えるコロナの高温を生み出す一因であることがわかってきた。その仕組みをよく調べると、単なる「小さなフレア」というわけでもないようだ。

JAXA宇宙科学研究所の清水敏文さんたちの研究チームは、コロナでループ状に増光するマイクロフレアを複数の観測装置で観測し、足元の彩層(コロナの下にある大気で比較的高密度)でのふるまいも同時にとらえることに成功した。観測には太陽観測衛星「ひので」と「アイリス(IRIS)」、さらにアルマ望遠鏡が使われた。

ループ状マイクロフレア
「ひので」がとらえたループ状マイクロフレア。このマイクロフレアの一方の足元(赤い四角内)を同時観測した(提供:JAXA宇宙科学研究所リリース、以下同)

コロナで起こったマイクロフレアは軟X線(比較的波長が長い、紫外線寄りのX線)で観測でき、足元での加熱はより長い波長でとらえられる。今回の観測では、ミリ波(波長3mm、周波数100GHz)とSi IVのスペクトル線が軟X線と同時に増光を始め、軟X線より早くピークを迎えた。

増光ループの軟X線強度、ループ足元の輝度温度、Si IVスペクトル線強度の時間変化
(a)「ひので」のX線望遠鏡(XRT)による増光ループの軟X線強度、(b)アルマ望遠鏡による100GHzスペクトル線のループ足元の輝度温度、(c)「アイリス」によるSi IVスペクトル線強度の時間変化。画像クリックで拡大表示

この変化から、コロナでエネルギーが解放されると同時に、加速された粒子が足元の彩層上部に突っ込んでプラズマを加熱し、ミリ波の増光が起こったのだと考えられる。ただし、観測データから見積もると、加速粒子が運んだエネルギーは熱として解放されたエネルギーの約100分の1でしかないことがわかった。

加速粒子がコロナループの足元に突っ込み、足元が発光する模式図
加速粒子がコロナループの足元に突っ込み、足元が発光する模式図

通常の規模のフレアでは、加速粒子が運ぶエネルギーの割合はもう少し多い。マイクロフレアは爆発エネルギーのほとんどをコロナで解放することで、効率よくコロナを加熱していることが示唆される。先行研究では、フレアの規模が小さいほど加速粒子によるエネルギーの運搬の割合が低いことが示されており、今回の成果もこれと一致するものだ。このような解釈が正しいとすれば、マイクロフレアにはコロナの熱的プラズマをより効率的に作る、通常フレアと異なるメカニズムが必要となる。

今回の観測研究では、彩層で増光が起こったのは表面磁場が強い部分ではなく、強い磁場に挟まれた空洞領域の上空であることもわかった。太陽における爆発には、磁力線のつなぎかえによって磁力エネルギーを熱エネルギーに変える磁気再結合(磁気リコネクション)が関わっているが、今回の観測は、その再結合が起こる、磁場と磁場の間の磁気的不連続面の様子を推定する助けとなりそうだ。

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