いて座A*の本来の姿は丸かった

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天の川銀河の中心に位置する超大質量ブラックホール「いて座A*」の電波画像は星間ガスでぼやけてしまうが、これを補正するとほぼ円形であることがわかった。

【2022年3月1日 国立天文台水沢VLBI観測所

天の川銀河の中心にある電波源「いて座A*」は、周囲を回る恒星の運動から、太陽の約400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールだと考えられている。このブラックホールの周囲から落下するガスは明るく輝き、約2万6000光年離れた地球からでも観測できる。

数百~数千kmという距離を隔てた複数の電波望遠鏡の観測データを組み合わせるVLBI技術を使うと高い解像度が得られるので、いて座A*も詳しく調べることができそうだと考えられる。しかし、その電波は天の川銀河内に存在する星間ガスによって散乱されるため、観測画像がぼやけてしまうという難点があった。

スペイン・アンダルシア天体物理研究所の趙壹濟さんたちの研究チームは、いて座A*の本来の構造を求めるために、2017年4月に東アジアVLBI観測網(EAVN)が波長1.3cm帯と7mm帯でとらえた画像を、過去の観測データに基づく星間散乱モデルを考慮して補正した。

東アジアVLBIネットワークの電波望遠鏡と観測周波数帯
観測で用いられた東アジアVLBIネットワークの電波望遠鏡と観測周波数帯(提供:EAVN)

その結果、波長1.3cm帯でも7mm帯でも、いて座A*はほぼ円形であることがわかった。「星間散乱の影響を補正する前のいて座A*の形状は、東西方向により細長くなっています。今回のEAVNによる観測で、この形状の伸びのほとんどが星間散乱の影響によるものであることが明らかになりました」(趙さん)。

いて座A*の構造
(左)天の川銀河の中心方向の様子。(右)EAVNによって得られたいて座A*の構造(上:波長1.3cm帯、下:波長7mm帯)。それぞれ左側の画像が星間散乱によってぼやけた「生の」観測画像で、右の画像が散乱の影響を除去して復元されたいて座A*の本来の構造。画像上の横線の長さ「1mas(1ミリ秒角)」は約0.0001光年に相当(提供:(左)MeerKAT/SARAO、(右)IAA-CSIC/国立天文台)

超大質量ブラックホールの周りでは、引き寄せられたガスが円盤状に集まって輝いていると考えられる。地球から見える補正後のいて座A*が円形に近いということは、この円盤の回転軸がほぼ地球の方を向いている可能性を示唆している。円盤よりも、円盤から垂直に噴出するジェットがいて座A*の輝きに寄与しているかもしれないが、その場合でもジェットの噴出方向、すなわち円盤の回転軸が地球を向いているのだと考えられる。

2017年4月にはEAVNだけでなく、他のVLBIネットワークもいて座A*を観測している。オランダ・ドバウド大学のSara Issaounさんたちはグローバルミリ波VLBIアレイ(GMVA)を使い、EAVNよりも短い波長3mm帯での観測結果を発表している。EAVNとGMVAによる3つの波長帯の観測から、いて座A*の光っている部分の大きさと明るさ、観測する波長の関係性が明らかになり、他の波長での結果も予測可能となった。

「今回の成果は、波長1.3mm帯でブラックホール撮影を目指すイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)にとっても大きな弾みとなるものです。EHTによるいて座A*の観測成果も楽しみに待っていてください」(EHT多波長観測ワーキンググループ/国立天文台水沢VLBI観測所 秦和弘さん)。

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