銀河中心ブラックホール周囲のガスの内部構造を観測的に解明
【2021年11月29日 JAXA宇宙科学研究所】
ほとんどの銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在すると考えられている。このブラックホールに物質が落ち込むと重力エネルギーが解放され、銀河の中心領域が明るく輝く「活動銀河核」として観測される。エネルギーの放出は銀河の進化に影響を与えると考えられることから、活動銀河核は銀河の進化を研究する上で重要な天体だ。
活動銀河核の特徴は、ブラックホールを取り囲むドーナツ状のガス構造「分子トーラス」に左右されると考えられている。トーラスの角度によって観測されるタイプが変わったり、ガスが活動銀河核のエネルギー源になっている可能性があったりするためだ。つまり、活動銀河核を理解するには分子トーラスの構造を理解することが不可欠だが、トーラスの直径は銀河全体の1万分の1程度(10光年程度)と小さく撮像が困難なため、これまで内部構造はわかっていなかった。
東京大学/JAXA宇宙科学研究所の大西崇介さんたちの研究チームは、やまねこ座の領域にある超高光度赤外線銀河「IRAS 08572+3915」をすばる望遠鏡で観測し、分子トーラスの内部構造を調べた。この研究で大西さんたちは、分子トーラスを撮像するのではなく、トーラス内部の一酸化炭素(CO)ガスで生じる近赤外吸収線を分散分光するという方法を用いた。
観測の結果、一酸化炭素ガスの吸収線に複数の速度成分が存在することがわかった。これは分子トーラス内の一酸化炭素ガスが連続的に存在しているのではなく、複数の分子ガスの雲(分子雲)を形成して離散的に存在していることを示唆する結果である。
さらに大西さんたちは、ドップラー効果を利用して分子雲の運動方向(外側に噴出しているか内側に落下しているか)を見積もり、吸収線の幅から分子雲とブラックホールとの遠近(遠いほど幅が狭くなる)を見積もって、分子雲の運動と空間的な位置を調べた。すると、分子トーラスが動的な内部構造を持ち、トーラス内の分子雲は中心に近いところで噴出、離れたところで落下していることがわかった。加えて、これらの分子雲は約30-700K(-240~430℃)と多様な温度を持つことも示されている。
今回の研究は、分子トーラス内部が動的構造であり、多様な温度の高密度分子雲で構成されることを観測的に明らかにしたものだ。同手法を他の活動銀河核に適用することで、分子トーラスの内部構造を体系的に調べることが可能になり、従来の直接撮像とは全く異なるアプローチによる活動銀河核の研究が進むと期待される。
〈参照〉
- あいさすGATE:銀河中心ブラックホールを取り囲むドーナツ状分子ガスの内部構造を一酸化炭素吸収線により解明
- The Astrophysical Journal:Study of the Inner Structure of the Molecular Torus in IRAS 08572+3915 NW with Velocity Decomposition of CO Rovibrational Absorption Lines 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/09/24 「XRISM」の観測で超新星残骸、活動銀河核の新たな成果
- 2024/09/18 活動銀河核とかげ座BLが増光
- 2024/09/06 宇宙の夜明けに踊るモンスターブラックホールの祖先
- 2024/06/24 「宇宙の夜明け」時代に見つかった双子の巨大ブラックホール
- 2024/04/03 天の川銀河中心のブラックホールの縁に渦巻く磁場構造を発見
- 2024/03/15 初期宇宙の巨大ブラックホールは成長が止まりがち
- 2024/03/08 最も重い巨大ブラックホール連星を発見
- 2024/03/05 超大質量ブラックホールの周りに隠れていたプラズマガスの2つのリング
- 2024/01/24 初撮影から1年後のM87ブラックホールの姿
- 2023/12/22 初期宇宙にも存在したクエーサー直前段階の天体「ブルドッグ」
- 2023/12/08 天の川銀河中心の100億歳の星は別の銀河からやってきたか
- 2023/11/09 銀河中心のガスは巨大ブラックホールにほぼ飲み込まれない
- 2023/10/02 ジェットの周期的歳差運動が裏付けた、銀河中心ブラックホールの自転
- 2023/09/25 銀河中心ブラックホールのジェットが抑制する星形成
- 2023/09/19 クエーサーが生まれるダークマターハローの質量はほぼ同じ
- 2023/09/15 巨大ブラックホールに繰り返し削られる星
- 2023/08/09 電波銀河の巨大ブラックホールに落ち込む水分子
- 2023/07/24 成長中の巨大ブラックホール周辺を電波で観測
- 2023/07/04 129億年前の初期宇宙でクエーサーの親銀河を検出
- 2023/05/01 超大質量ブラックホールの降着円盤とジェットの同時撮影に成功