星から惑星状星雲へ、進化の最終段階に入った「宇宙の噴水」

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終末期の星がジェットを噴き出す「宇宙の噴水」天体の新たな観測データが得られた。星が惑星状星雲へと進化する最終段階がとらえられたかもしれない。

【2021年9月21日 国立天文台野辺山宇宙電波観測所

質量が太陽と同じくらいの恒星は、寿命の終わりに近づくと大きく膨らんで赤色巨星になった後、漸近巨星分枝星(AGB星)や脈動変光星へと進化し、星の表面から物質を放出する。最後には核融合反応の「燃えかす」である中心核が残されて白色矮星となり、周りに放出された物質は惑星状星雲になる。

この最後の時代に星から放出される物質はほぼ球対称に出ていくのが普通だが、中には正反対の2方向に高速のジェット(双極ジェット)の形で、普通の老年星より激しく物質を噴き出すものもある。このタイプの天体は主に、ジェットの中の水分子が特定の周波数の強い電波を出す「水メーザー」という現象を観測することで発見されており、「宇宙の噴水」天体(water fountain source)とも呼ばれている。代表的な天体として、わし座の方向約7200光年の距離にある「W 43A」という星などがある(参照:「ほんの60年前にジェットを噴出して変身し始めた老齢の星」)。

W 43A
「星ナビ」2021年8月号掲載「ビジュアル天体図鑑 No.199:宇宙の噴水 W43A」

ただし、これまでに見つかっている「宇宙の噴水」天体はW 43Aを含めて15個しかない。これまでの研究で、この種の天体は太陽ほどの質量の星が連星になっていて、進化の最晩年に一時的に双極ジェットを噴き出す状態になったものと考えられているが、ジェットの活動期間は100年未満しかないと推定されている。これほど激しいジェットを噴き出す天体は、宇宙の物質の循環や天の川銀河の物質の進化に大きな影響を与えるはずだが、観測例が少ないため、ジェットが星からどんなタイミングでどう放出されるのかといった詳細は謎のままだ。

鹿児島大学の甘田渓さんたちの研究チームは、「宇宙の噴水」天体が放射するメーザー電波を長期にわたって監視することでその性質を明らかにする研究を行っている。甘田さんたちは水メーザーだけでなく、一酸化ケイ素(SiO)の分子が出すメーザー電波も受信できるシステムを開発し、これを国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡に取り付けて2018年12月から観測を始めた。一般に終末期の星では、SiOメーザーは水メーザーに比べて星に非常に近い場所で起こる傾向がある。

IRAS 16552-3050
IRAS 16552-3050の赤外線画像(中心の赤い天体)。中心の×印と円は野辺山45m電波望遠鏡の視野中心と視野の大きさを示す(提供:NASA/JPL-Caltech/UCLA)

観測の結果、さそり座の方向約2万7000光年の距離にある「IRAS 16552-3050」という「宇宙の噴水」天体で2021年3月に新たなSiOメーザーが検出された。これまでに「宇宙の噴水」天体でSiOメーザーが検出された例は前述のW 43Aしかないが、W 43AのSiOメーザーは現在は消えてしまっているため、今回の発見は「宇宙の噴水」天体の性質に迫る貴重な手がかりとなるものだ。

研究チームでは、IRAS 16552-3050の星のすぐ近くで大規模なジェットの放出が今まさに始まり、このジェットのガスが星の周囲の物質を貫通したことでSiOメーザーが出現したと考えている。この星が惑星状星雲をつくり出す最終段階に向かう新たなステップに進んだことを示唆するものだ。

IRAS 16552-3050のジェット
IRAS 16552-3050のジェット(青)と、それに付随するSiOメーザー源(赤いノズル状の構造の中にある白い斑点)の想像図。今回検出されたSiOメーザー源は地球に近づく速度成分を持っており、2本のジェットのうち地球に近づく側(右下)の内部にあると推定されている(提供:木下真一郎/鹿児島大学)