隕石の分析で明らかにされた星間粒子の歴史

このエントリーをはてなブックマークに追加
コンドライト隕石に残存する星間粒子中のヘリウム原子の3次元分布が、世界初の装置で分析された。個々の星間粒子が誕生した時期や存在した環境の情報が含まれている。

【2025年10月24日 北海道大学

宇宙に存在する星間粒子(星間塵)は惑星を作る原材料の一つで、地球を作った星間粒子はコンドライト隕石に数千分の1~数万分の1の割合で含まれている。

この星間粒子のうち、隕石中で最も多く見つかるものの一つであるSiC(炭化ケイ素)星間粒子には最大1%のヘリウム原子が含まれている。しかし、SiCはヘリウム原子を成分にできないため、多量のヘリウム原子が含まれていることは謎であった。

北海道大学の馬上謙一さんたちの研究チームは、粒子中のヘリウムの3次元位置をナノスケール(100万分の1mm)の細かさで分析できる装置「LIMAS」を開発し、コンドライト隕石から抽出した15個の星間粒子を分析した。その結果、ヘリウムがSiC星間粒子の表面下約100nm(=0.1μm)の層に非常に濃く濃縮していることが突き止められた。

LIMAS
LIMASの外観(提供:北海道大学リリース、以下同)

SiC星間粒子のヘリウムの3次元分布
SiC星間粒子3個のヘリウムの3次元分布。粒子毎にヘリウム濃度が異なり、表面下約100nmの層にヘリウムが濃縮している

こうしたヘリウムの分布は、惑星状星雲の中心星から吹く高速の星風が星間粒子に捕獲された結果だと解釈されている。

また、ヘリウムの捕獲量は星間粒子によって大きく異なっていて、その違いはヘリウムが星雲の中心星から異なる距離で粒子に捕獲されたことを表している。この距離の差は、粒子がヘリウムを多く捕獲した時の年齢が異なることに対応している。解析の結果、その年齢は2万~100万歳であることが明らかになった。

SiC星間粒子が惑星状星雲中心星からの星風を受けている概念図
惑星状星雲の中心星からSiC星間粒子が星風を受けている概念図。図中のSiC粒子の実際の大きさは約3μm(M57の画像提供:ESA/Webb, NASA, CSA, M. Barlow, N. Cox, R. Wesson)

一連の結果から描かれるシナリオは次のようなものだ。まず、SiC星間粒子が、太陽のような星が一生の最期にさしかかった状態である赤色巨星の一種「AGB星(漸近巨星分枝星)」の、終末期にあたる100万年ほどの間にAGB星の周りで形成される。その後にAGB星が惑星状星雲へと進化し、星雲の中心星から吹く星風を受けた様々な場所(年齢)の星間粒子がヘリウムを獲得して星間空間に拡散した。

星間粒子にはAGB星由来だけでなく、超新星起源など他の種類のものもある。今回の研究手法を応用することで、星間粒子の進化と様々な恒星の進化との関係について、総合的な理解につながると期待される。