天体衝突による熱が小惑星表面で生命の材料を合成

このエントリーをはてなブックマークに追加
天体衝突により小惑星表面にクレーターが形成された後、周囲の温度上昇が水質変性や有機物合成を引き起こす可能性があることが、高速度衝突実験で示された。

【2021年5月25日 神戸大学

地球生命の誕生に必要不可欠な水や有機物は、彗星や小惑星の衝突によってもたらされたと考えられており、その根拠として小惑星由来の隕石に水質変成を受けた鉱物や有機物が発見されている。水質変成や有機物の合成を引き起こす化学反応には熱源が必要で、最も有力だったのがアルミニウムの放射性同位体であるアルミニウム26が崩壊するときの熱だった。

しかしアルミニウム26の半減期は72万年と短いので、その熱で水質変成や有機物の合成が起こるとしても、太陽系誕生後の長い歴史で数百万年程度というごく短期間だったはずだ。また、放射性壊変による熱が効いてくるのは直径数十km以上の比較的大きな小惑星の内部に限られる。

これに対して、小天体の衝突で発生する熱が近年注目されている。小惑星同士の衝突は常に起こっているし、どんなに小さな小惑星でも、衝突で破壊されない限りは表面が加熱されうるからだ。

神戸大学の保井みなみさんたちの研究グループは、小惑星への小天体衝突によって発生する衝突残留熱と小天体の衝突条件との関係を調べるため、小惑星を模擬した試料を用いて高速度衝突実験を行い、形成されるクレーター周囲の衝突後の温度分布を計測した。実験では衝突体のサイズ・密度、衝突速度などを変化させ、衝突条件による温度の時間変化の違いを調べた。

衝突実験でできたクレーターの温度変化
アルミニウム弾丸、衝突速度4.3km/sとしたときの実験でできたクレーターの温度変化の例。横軸が時間、縦軸が温度変化を示す。色の違いは衝突点から標的内の熱電対までの距離を示す。右の写真は形成したクレーター(提供:プレスリリースより、以下同)

温度の時間変化のグラフを元に、最高到達温度と加熱継続時間(最高到達温度の半分になる温度間の時間)を調べて、衝突条件との関係が求められる。この経験則を組み込んだ「衝突残留熱モデル」を構築し、小惑星表面に形成されたクレーター周囲の温度分布の時間変化を計算した。そして、モデルの計算結果と、過去の隕石の分析からわかっている水質変成と有機物合成に必要な温度・継続時間の条件とを照らし合わせた。

小惑星のクレーター周囲の等温線分布
衝突残留熱モデルで計算した小惑星のクレーター周囲の等温線分布。点線は等温線を示す。数字はその等温線に達したときの衝突点からの距離をクレーター半径で規格化した値を示す

その結果、太陽から2au以内の距離では、半径20km以上のクレーター周囲では水質変成が起こる可能性があり、半径1km以上のクレーター周囲でかつ0℃まで温度が上昇する領域では有機物の合成が起こることが明らかになった。また、小惑星が主に分布する太陽から4au以内では、半径100mという小さなクレーター周囲でも100℃まで温度が上昇するため、有機物の合成が起こることがわかった。

今回の研究結果から、水質変成や有機物合成が太陽系誕生直後に限らずあらゆる年代で、どんなに小さな小惑星でも起こる可能性があることが示された。地球の生命誕生に必要な水や有機物を地球にもたらした候補天体が増えると期待される。

関連記事