ソーラーオービター、太陽に初接近
【2020年6月19日 ヨーロッパ宇宙機関】
今年2月10日に打ち上げられたヨーロッパ宇宙機関の太陽探査機「ソーラーオービター」は、6月15日に初めて近日点(楕円軌道上で太陽に一番近づく点)を通過した。このとき太陽の表面からの距離は約7700万kmで、地球・太陽間距離の半分にまで迫っている。近日点通過後の1週間は探査機に搭載された6基の望遠鏡を含む10種類の科学機器の動作確認が行われており、撮影された画像は7月中旬に公開される予定だ。
ソーラーオービターの太陽初接近のアニメーション動画(提供:ESA/MediaLab)
「私たちはこれ以上近くから太陽を撮影したことがありません。米・ハワイにある口径4mの『ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡』が今年初め、太陽をより高解像度で大写しにしましたが、地球の大気の影響を受けるため、宇宙から観測したときと比べて太陽スペクトルのほんの一部しか見られません」(ソーラーオービター・プロジェクト・サイエンティスト Daniel Müllerさん)。
また、2018年に打ち上げられたNASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」は太陽へさらに近い距離まで迫るが、同探査機には太陽を直接とらえる望遠鏡は搭載されていない。
「探査機に搭載されている機器がこれだけ太陽の近くで稼働するのは初めてのことで、太陽風の構造や組成について、これまでにない情報を提供してくれることでしょう。機器の稼働試験というだけではなく、新たな興味深い成果も得られると期待しています」(ソーラーオービター副プロジェクトサイエンティスト Yannis Zouganelisさん)。
6月15日に初期フェーズを終えたソーラーオービターは、2021年11月から科学観測を開始する。探査機は最終的には、太陽表面まで4200万kmまで接近する。これは太陽から水星までの距離よりも短い。
最初は黄道面、つまり惑星の公転軌道とほぼ同じ面上を動くソーラーオービターだが、科学観測フェーズ中に金星の重力を利用して徐々に黄道面を離れる。高緯度から太陽を探査することで、ソーラーオービターは観測史上初めて太陽の両極をはっきりととらえられるようになる。太陽の極域の観測は太陽磁場のふるまいを理解することにつながる。さらに、磁場によって発生する太陽風や、太陽風が太陽系全体の環境について及ぼす影響についても研究が発展していくだろう。
太陽を中心に描いたソーラーオービターの軌道を示した動画(提供:ESA/ATG MediaLab)
関連記事
- 2022/08/17 ガイアのデータで描く太陽の未来
- 2022/07/08 太陽コロナを効率的に加熱するマイクロフレア
- 2022/03/24 太陽型星では大気の加熱メカニズムは普遍的
- 2022/03/07 太陽コロナの特殊なイオンを実験室で生成
- 2022/03/03 太陽表面の乱流運動を深層学習でとらえる
- 2021/12/24 1957-8年、太陽活動が観測史上最大級の時期のオーロラ国内観測記録
- 2021/12/15 若い恒星のスーパーフレアに伴う物質の噴出を初検出
- 2021/09/27 過去の記録からダルトン極小期の太陽活動が明らかに
- 2021/09/22 「富岳」、太陽の自転周期を再現することに成功
- 2021/03/17 17世紀初頭、太陽活動の周期は16年まで延びていた
- 2021/02/26 表面からコロナ直下まで、ロケット観測でわかった太陽の磁場
- 2021/02/05 太陽嵐の予測で世界最高水準を達成
- 2020/12/02 近赤外線太陽全面像で見たインターネットワーク磁場
- 2020/10/15 「恒星としての太陽」からわかること
- 2020/08/06 太陽フレアを予測する画期的な計算方法
- 2020/07/21 太陽探査機ソーラーオービター、最初の成果を公開
- 2020/07/15 CosmoRadio -質問回答①太陽と月-
- 2020/06/12 2020年6月21日 部分日食(アフリカ~インド、中国、台湾で金環日食)
- 2020/05/21 【特集】部分日食(2020年6月21日)
- 2020/04/07 野辺山の電波ヘリオグラフが運用終了