合体銀河の超大質量ブラックホールを取り巻くガス

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衝突が進行中の2つの銀河それぞれの中心にある超大質量ブラックホールを取り巻く分子ガスの詳細な構造が、アルマ望遠鏡によりとらえられた。銀河やブラックホールの成長を理解するための大きな手がかりとなる。

【2020年1月21日 アルマ望遠鏡

へびつかい座の方向4億光年の距離に位置する「NGC 6240」は、2つの銀河の衝突が進行中の天体だ。2つの銀河それぞれの中心に存在する超大質量ブラックホールは、衝突によって最終的には1つのより大きいブラックホールになると考えられている。

チリ・ポンティフィシア・カトリック大学のEzequiel Treisterさんたちの研究チームはアルマ望遠鏡でNGC 6240を観測し、ブラックホールを取り巻く塵やガスを詳しく調べた。「この銀河を理解するための鍵は、分子ガスです。分子ガスは星を作るのに必要な燃料ですが、超大質量ブラックホールにも供給され、超大質量ブラックホールを成長させるのです」(Treisterさん)。

NGC 6240
NGC 6240。(左)アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の画像を合成したもの、(右上)アルマ望遠鏡による画像。分子ガスは青色、2つのブラックホールは赤い点で示されている。(右下)合成画像の中心部のクローズアップ(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), E. Treister; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello; NASA/ESA Hubble)

分子ガスのほとんどは2つのブラックホールの間の領域に存在している。従来の観測ではこのガスが回転円盤である可能性が示されていたが、今回の研究からはその証拠は見つけられなかった。「その代わりに、2つのブラックホールの間の領域に、細い糸や泡のような形になったガスの混沌とした流れを発見しました。ガスの一部は、毎秒500kmの速度で外に向かって放出されています。ガス流の原因はまだわかっていません」(Treisterさん)。

ガスの観測からは、NGC 6240のブラックホールの質量をより正確に見積もることができる。星の運動から導き出された以前の理論モデルでは、ブラックホールの質量は太陽の約10億倍とされてきたが、このモデルではガスの総質量がわからなかったため、ブラックホール本体と周囲にあるガスの合計質量をブラックホールの質量として推算していた。

米・トレド大学のAnne Medlingさんたちの研究チームはアルマ望遠鏡の観測データからガスの量を精密に見積もり、ブラックホールの質量は太陽の数億倍程度と計算した。「ブラックホールの影響範囲内に閉じ込められているガスの質量が、非常に大きいことがわかりました。これをもとにすると、このブラックホールに対して過去に得られた多くの質量測定値は5~90%ほど低くなる可能性があると考えています」(Medlingさん)。

また、分子ガスは予想していたよりもさらにブラックホールに近い場所にあることも明らかになった。「分子ガスは非常に極端な環境にあります。これらのガスは、最終的にブラックホールに落ちるか、高速で放出されると考えられます」(Medlingさん)。

「この銀河は非常に複雑です。高感度かつ高解像度のアルマ望遠鏡によって得られた詳しい電波画像なしには、銀河内部で何が起こっているのかを知ることは決してできません。今回の観測により、NGC 6240の3次元構造をよりよく把握できるようになりました。合体が進む最終段階で、銀河がどのように進化するかを理解するための機会となります。数億年後、この銀河は完全に異なった姿で見えることでしょう」(アメリカ国立電波天文台 Loreto Barcos-Munozさん)。

NGC 6240の想像図
「NGC 6240」の想像図。青で描かれたガスの左上と右下に、2つの超大質量ブラックホールが描かれている(提供:NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)

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