原始惑星系円盤の偏光観測からダークマターの正体に迫る

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原始惑星系円盤の偏光パターンの調査から、ダークマターの候補の一つである「アクシオン」と呼ばれる素粒子の性質に強い制限を付ける成果が得られた。

【2019年6月6日 京都大学東北大学

宇宙にはダークマター(暗黒物質)と呼ばれる未知の物質が大量に存在している。その正体は不明であり、観測や理論から様々な候補が考えられているが、そのなかの一つが「アクシオン」と呼ばれる素粒子だ。

アクシオンは「ひも理論」などの高エネルギー理論から存在が予言されている素粒子で、これまでに発見されたどの素粒子よりも軽く、光の伝播に影響を与えると考えられている。太陽から飛んでくるアクシオンを地上でとらえる実験や、人工的にアクシオンを生成させて検出する実験が行われてきたが、未だ発見には至っていない。

この「光の伝播に影響を与える」という性質が観測結果に見られるかどうかを確かめるため、京都大学の藤田智弘さんたちの研究チームは、すばる望遠鏡で観測した原始惑星系円盤のデータに注目した。原始惑星系円盤とは、若い星の周りに広がる、ガスや塵からなる円盤状の構造で、星形成や円盤中で誕生する惑星の研究対象とされているものだ。

原始惑星系円盤からの光を観測すると、きれいな同心円状の偏光パターンを持っている。アクシオンには光の偏光方向を回転させる性質があると考えられているので、原始惑星系円盤から地球までの宇宙空間にも存在するダークマターの正体がアクシオンであれば、原始惑星系円盤の同心円状の偏光パターンが渦巻き状に乱されると予測される。

アクシオンの影響を受ける原始惑星系円盤の偏光
原始惑星系円盤の偏光(左上)が地球へ届くまでの間にアクシオンの影響を受けて乱れる(右下)ことを表した概念イラスト(提供:プレスリリースより)

研究の結果、観測データには偏光パターンの乱れは見つからなかった。これは、アクシオンの性質に対してこれまでで最も強い制限をつける成果であり、アクシオンを探索すべき観測範囲を飛躍的に絞り込めたということを意味するものである。今後さらに高精度の観測によって、アクシオンの兆候を発見したり、ダークマターの正体を解明したりできる可能性もあるだろう。

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