CALET、10テラ電子ボルトまでの宇宙線陽子スペクトルを単独高精度測定

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国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟に設置されている宇宙線電子望遠鏡「CALET」が、単一測定器としては初めて50ギガ電子ボルトから10テラ電子ボルトまでのエネルギー領域における宇宙線陽子スペクトルの高精度直接観測に成功した。

【2019年5月15日 早稲田大学JAXA

高エネルギーの陽子や電子の流れである宇宙線は、太陽や天の川銀河など様々なところからやってきて地球に大量に降り注いでいる。そのなかで銀河宇宙線の起源については、「超新星残骸の衝撃波によって加速されて高エネルギーとなり、銀河磁場による拡散的伝播で銀河外へ漏れ出す」という標準モデルが考えられている。

大気に衝突する前の宇宙線はこれまで、気球や人工衛星などによって観測されてきた。2015年8月に国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟に設置された宇宙線電子望遠鏡「CALET」もそうした装置の一つで、広いエネルギー測定範囲と確実な装置較正を備えているという特長を持つ。

早稲田大学の浅岡陽一さんたちの研究チームは「CALET」が3年間で取得したデータから、50ギガ電子ボルトから10テラ電子ボルトでの宇宙線陽子スペクトルを調べた。従来は複数の測定方法によって得られていた、比較的大きなばらつきがあったデータを、単一測定器によって高精度に測定することに初めて成功した結果となる。

50ギガ電子ボルトから10テラ電子ボルトの範囲で測定された宇宙線陽子スペクトル
50ギガ電子ボルトから10テラ電子ボルトの範囲で測定された宇宙線陽子スペクトル。エネルギーが大きくなるにつれ急激に小さくなる流束のスペクトル構造を詳細に調べるため、縦軸にはエネルギーの2.7乗が積算されている(提供:JAXA/早稲田大学)

近年の観測研究により、陽子スペクトルには、エネルギーに対する流束の減少割合が減っていく「スペクトル硬化」という変化が見られることが知られている。今回の結果はその現象を幅広い範囲で高精度に裏付けるものとなっている。

今後はさらに高エネルギー側の宇宙線スペクトルの決定が進められ、超新星残骸による加速モデルの検証や限界の見積もりが研究されていく。また、CALETが取得した信頼性の高い宇宙線陽子スペクトルは、暗黒物質の間接探索や大気および宇宙ニュートリノ、ガンマ線天文学にも使用される重要なデータとして活用されることも期待される。

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