「あらせ」と「きぼう」の連携で、電子の豪雨の原因解明

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ジオスペース探査衛星「あらせ」と国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟の装置による同時観測から、REP現象と呼ばれる「電子の豪雨」がプラズマ波動によって発生していることが明らかとなった。

【2020年9月11日 国立極地研究所

2016年12月に打ち上げられたジオスペース探査衛星「あらせ」は、太陽風の擾乱によって発生する宇宙嵐に伴う粒子の加速過程や、宇宙嵐発達の仕組みを明らかにするため、地球の放射線帯(ヴァン・アレン帯)中心部で電子が高エネルギーになる過程を観測している。

また、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームには、高エネルギー電子・ガンマ線望遠鏡(CALET)、全天X線監視装置(MAXI)、宇宙環境計測ミッション装置(SEDA-AP)などの放射線計測装置が搭載されており、高エネルギー電子をはじめとする放射線を観測している。

「あらせ」と「きぼう」
(左)ジオスペース探査衛星「あらせ」(提供:ERG science team)/(右)国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟に取り付けられたSEDA-AP、MAXI、CALET(提供:JAXA/NASA)

国立極地研究所の片岡龍峰さんたちの研究グループはこれらの装置のデータを用いて、数分間にわたってエネルギーの高い電子が降り注ぐ「REP現象」(Relativistic Electron Precipitation、相対論的電子降下)と呼ばれる「電子の豪雨」の発見(参照:「ISSで起こる電子の集中豪雨」)や、船外活動を行う宇宙飛行士の被曝にREP現象が及ぼす影響を見積もることに成功している。このREP現象が起こる原因は、その発生の時間的分布から、イオンの作るプラズマ波動(EMIC波動)ではないかと推測されてきた。

プラズマ波動については、いつ、どこで、どういう規模で発生するかを予測するための研究が国際的にも行われている。特に、これらのプラズマ波動は人工衛星の障害の原因になる放射線帯の電子を大気まで一気に降り注がせる(参照:「オーロラを発生させる高エネルギー電子が大気圏に降り注ぐ仕組みを解明」)ため、放射線帯を予測するための先端的な研究が進められている。

そこで研究グループでは、「あらせ」とISSが同じ磁力線上を通過した機会のうち、ISSでREP現象を観測した例を選び、ISSでの高エネルギー電子の測定結果と「あらせ」のプラズマ波動データの比較・解析を行った。その結果、EMIC波動が原因となってISSでのREP現象が発生していた例が確認された。

さらに、電子の作るコーラス波動や静電ホイッスラー波動といったプラズマ波動が原因となるREP現象も発生していることも新たに明らかになった。EMIC波動によるREP現象とプラズマ波動によるREP現象では、高エネルギー電子の時間変化の傾向が異なっており、EMIC波動によるものでは準周期的、コーラス波動によるものでは不規則、静電ホイッスラー波動によるものでは「なめらか」であった。

「あらせ」とISSでの同時観測データ
「あらせ」のプラズマ波動観測データ(左)と、ISSでの電子の集中豪雨(REP現象)の観測データ(右)。上から順に、EMIC波動によるREP現象、コーラス波動によるREP現象、静電ホイッスラー波動によるREP現象。画像クリックで表示拡大(提供:プレスリリースより)

この時間変化における傾向の差は、時間分解能を高めたCALETのデータと、MAXI、SEDA-APの連携観測によって明らかになったものだ。元々CALETは一次宇宙線観測、MAXIは天体物理学の観測を目的とした装置だが、本来の研究分野を大きく越えた連携観測によって、3種のプラズマ波動と、時間変動パターンの異なるREP現象の原因解明のための糸口をつかむことができた。

今回明らかになった「ISSでのREP現象の原因がプラズマ波動であること」は、高度400kmと比較的低い軌道を周回するISSに滞在する宇宙飛行士を守るための宇宙天気予報と、高度3万6000kmの静止軌道を周回する人工衛星を守るための宇宙天気予報は表裏一体であること、これらがプラズマ波動を介して統一的に理解できることを示唆するものである。宇宙天気予報の精度向上や、REP現象の物理メカニズムについて、さらなる解明が期待される。

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