「はやぶさ2」いよいよ明日正午前に人工クレーター実験
【2019年4月4日 JAXA】
明日4月5日に予定されている「はやぶさ2」の人工クレーター生成実験(「SCI運用」)では、「はやぶさ2」から「SCI」と呼ばれる衝突装置をリュウグウに向けて分離する。SCIは分離から40分後に空中で起爆し、銅製の衝突体がリュウグウの表面に撃ち出されて直径数mの人工クレーターを作ることになっている。これによってリュウグウ内部の物質を掘り出し、後日スペクトル観測や採取を行うのが狙いだ。小惑星に長期滞在する探査機から人工物を衝突させ、できたクレーターの観測や着陸、物質採取まで試みるのは世界初だ。
4月2日の記者説明会で、SCI運用当日の詳しいタイムスケジュールなどが発表された。SCIを衝突させる目標地点は、リュウグウのほぼ赤道上にある北緯6度・東経303度の地点を中心とする半径200mの範囲に設定された。2月22日に行われた第1回タッチダウンの地点(通称:タマテバコ)からは東へ約90度離れている。
SCIの衝突目標地点。青い楕円内部のどこかに衝突し、クレーターができると想定されている。できるクレーターは直径数m程度のため、この縮尺の画像では判別できないほど小さいサイズになる(提供:JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研)
現在高度20kmのホームポジションにいる「はやぶさ2」は、4月4日の13時17分(日本時間、地球上での時刻。以下同)にリュウグウに向けて降下を開始する。4月5日11時ごろに高度500mに到達し、11時13分にSCIを分離する。SCIはリュウグウに向かって落下し、40分後の11時53分に高度約200mで起爆する。これによって衝突体が撃ち出され、クレーターが作られる。
SCIを分離した「はやぶさ2」は、クレーター生成で巻き上げられる大量の放出物質を避けるため、15分ほどかけて水平方向に1km(リュウグウの直径約1個分)ほど移動する。分離18分後の11時31分には、クレーター生成の様子を「はやぶさ2」に代わって撮影する小型カメラ「DCAM3」を分離し、さらに垂直方向に逃げる。SCIが作動する時刻にはリュウグウの裏側(夜側)に約3.5km回り込んだ地点まで達する。ここまで逃げればクレーターからは「陰」になるため、放出物質が当たる危険を避けられる。
その後も「はやぶさ2」はそのまま垂直方向に移動を続け、5日夕方にはリュウグウから約20km離れる。ここからホームポジションへ帰る運用が始まり、リュウグウから水平方向に最大約100km離れる軌道に乗って、10日ほどかけて4月16日にホームポジションに戻る予定だ。
「はやぶさ2」がSCI分離から回避のための移動を経てホームポジションに戻るまでの経路。図の上方向に地球と太陽がある。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA)
SCIを分離した直後には、「はやぶさ2」の広角カメラ「ONC-W1」で、探査機から離れてゆくSCIの撮影が試みられる。その後「はやぶさ2」は衝突地点から待避してしまうため、SCIの起爆やクレーターができるようすは「DCAM3」が撮影する。DCAM3が撮影した画像はすぐに「はやぶさ2」に送信され、探査機のデータレコーダーに保存される。SCI運用の当日は「はやぶさ2」の待避運用が最優先になるため、保存された画像を地球にダウンロードする作業は6日以降になる見込みだ。
このため、SCIが正常に起爆したかどうかやクレーターができたかどうかをリアルタイムで知る手段はない。当日は探査機の状態を示すデータ(テレメトリ)とともに、分離直後のSCIを撮影したONC-W1の画像をまず最優先で地球にダウンロードし、これらを見てSCI運用の成功を判断するという。
「はやぶさ2」がホームポジションに戻った後は、衝突地点を低高度から観測して人工クレーターを探し出す運用(CRA2運用)が4月22日の週に行われることになっている。
SCI運用が行われる4月5日には、午前10時から2時間ほど「はやぶさ2」管制室のようすがインターネットでライブ配信される。この世界初の複雑な探査機運用がぜひ成功するように応援しよう。
「はやぶさ2」衝突装置運用管制室ライブ配信 4月5日(金)10:00〜12:15ごろ
4月2日記者説明会の動画
(文:中野太郎)
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