25億光年彼方のクエーサーの中心周囲を回るガス雲
【2018年12月4日 テルアビブ大学】
「クエーサー」と呼ばれる活動銀河の一種は、銀河の中心部から強い電磁波を放射している天体だ。その第1号は、1963年にオランダの天文学者マーテン・シュミット(Maarten Schmidt)によって発見された、おとめ座の方向25億光年彼方の「3C 273」というクエーサーで、天の川銀河内の星すべてを合わせた明るさの100倍もの輝きを放っている。
ハッブル宇宙望遠鏡によるクエーサー「3C 273」(画像中央)の可視光線画像(提供:NASA)
独・マックスプランク地球外物理学研究所 Eckhard Sturmさんたちの研究チームは、ヨーロッパ南天天文台パラナル観測所のVLT干渉計に設置された装置「GRAVITY」を用いて、3C 273の中心部分を詳しく観測した。GRAVITYは4つの望遠鏡を連動させて口径130mに相当するバーチャルな望遠鏡として機能し、非常に高い解像度を得ることができる。
その結果、3C 273の中心部に存在する超大質量ブラックホールの周りを、ガス雲が回転運動している様子がとらえられた。天の川銀河以外の銀河の中心におけるガス雲の回転運動が詳しく調べられたのは初めてのことだ。「GRAVITYは初めて、ブラックホールの周りを細部まで見せてくれました。そのおかげで、ガス雲の運動を明らかにすることができました」(Sturmさん)。
観測された領域の実際の大きさは太陽系程度に相当するが、25億光年も離れているために見かけの大きさは極めて小さい。「これまで、超大質量ブラックホールからガスまでの距離や、ガスの動きのパターンの計測には、クエーサーからの光の変動を利用する手法しかありませんでした。GRAVITYでは、10マイクロ秒角のレベルで構造を見分けることが可能です。これは月面に置いた硬貨を地球から観測できる精度に相当します」(イスラエル・テルアビブ大学 Hagai Netzerさん)。
また、ガス雲の回転運動の測定からブラックホールの質量が太陽の約3億倍であると計算され、過去にクエーサーの光の変動から見積もられていた値と一致することが確認された。宇宙に多数存在するクエーサーの超大質量ブラックホールの質量を測定するうえで、GRAVITYの計測結果は一つの基準となるだろう。
〈参照〉
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