銀河中心を高速で公転するガス塊からの赤外線フレア

このエントリーをはてなブックマークに追加
天の川銀河の中心に近い領域で赤外線フレアが観測され、その特徴から、ガスの塊が光速の約30%の速度で公転していることが示された。銀河中心に超大質量ブラックホールが存在することを支持する新たな証拠となる。

【2018年11月6日 ヨーロッパ南天天文台

ブラックホールを取り巻く降着円盤中の物質は、事象の地平線と呼ばれる境界(ブラックホールからの距離範囲)よりも内側に入ると、ブラックホールの強力な重力から逃げ出すことができなくなる。そのすぐ外側の領域は最深安定軌道と呼ばれ、この軌道にある物質は相対論的速度でブラックホールの周りを公転する。

独・マックスプランク地球外物理学研究所(MPE)のReinhard Genzelさんを中心とする国際研究チームは、ヨーロッパ南天天文台の望遠鏡VLT(The Very Large Telescope)に搭載されている機器「GRAVITY」を使って、天の川銀河の中心に存在すると考えられている超大質量ブラックホール「いて座A*」の性質を調べてきた。GRAVITYではヨーロッパ南天天文台の4つの望遠鏡の光を合わせて、口径130mに相当する超望遠鏡として観測を行うことができる。

その結果、天の川銀河の中心領域から、近赤外線の波長でのフレア現象がとらえられた。フレアの起源は、いて座A*の最深安定軌道を高速で公転する高温のガス塊とみられている。

「実際にブラックホールの周りを光速の30%もの高速で公転する物質を目撃し、心が震える思いです。GRAVITYの驚異的に高い感度のおかげで、これまでで最も詳細なリアルタイムの観測ができました」(MPE Oliver Pfuhlさん)。

ブラックホールの周囲を光速の30%で公転するガスのシミュレーション動画(提供:ESO/Gravity Consortium/L. Calcada)

Genzelさんたちは今年5月、VLTに搭載されている分光器「SINFONI」で、いて座A*を高速で公転する星「S2」を観測した。そして、S2がいて座A*に接近通過する様子から、アインシュタインの一般相対性理論が予測した現象が非常に重力の強い極限環境で起こることを初めて示した(参照:「銀河中心ブラックホールの近傍で一般相対性理論を検証」)。

いて座A*に非常に近い星々の運動を再現した動画(提供:ESO/L. Calcada/spaceengine.org)

そのS2の接近通過の際に、強い赤外線放射も観測された。「S2のモニタリング観測を行っていた際、私たちはいて座A*にも注目していました。そして幸運にも、3つの明るいフレアに気づいたのです」(Pfuhlさん)。

これらのフレアは、ブラックホールに非常に近い領域にある高エネルギー電子からの放射であり、いて座A*を公転する高温ガスの磁場との相互作用で生じたものと考えられている。そしてその特徴は、太陽の400万倍の質量を持つブラックホールを公転する物質中のホットスポットに関する理論の予測と一致するものだ。いて座A*が太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールであるという強力な証拠となる。

「今回の成果は、常に私たちの夢のプロジェクトのうちの一つでしたが、こんなに早く実現するとは思っていませんでした」(Genzelさん)。

関連記事