初検出された重力波の起源は原始ブラックホールかもしれない

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重力波と共に発見された連星ブラックホールは、宇宙の誕生直後に形成された原始ブラックホールであるという新理論が発表された。今後、観測データが蓄積されることにより、この理論の検証が可能になると期待されている。

【2016年8月8日 東京大学

今年2月、米国を中心としたLIGO-Virgoチームによって、重力波初検出という大ニュースが発表された(参照:アストロアーツニュース「アインシュタインの予測から100年、重力波を直接検出」)。

データの解析から、この重力波は太陽の約30倍の質量を持つブラックホール同士の連星が合体した時に放出されたものだとわかり、ブラックホール連星の初発見という点でも大きな話題となった。これほど重いブラックホールがどのようにして作られ、連星を形成したのかについては、研究者の大きな関心が集まっている。

東京大学大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センターの須山輝明さん、京都大学の佐々木節さん、田中貴浩さん、立教大学の横山修一郎さんの研究チームは、今回見つかったブラックホールが「原始ブラックホール」であるという新理論を提唱した。

原始ブラックホールとは、宇宙が誕生直後で非常に高温・高密度だった時期に、密度が特に高い領域が重力崩壊を起こした結果として形成されるブラックホールのことだ。天体物理起源のブラックホールとは全く異なる起源を持っている原始ブラックホールの観測報告は今のところないものの、初期宇宙の理論モデルの中には原始ブラックホールの存在を予言するものもある。

今回の研究は、原始ブラックホールが何らかの機構で作られたということを前提として、それらが宇宙初期でランダムに点在していたという状況を出発点とし、ブラックホール連星の合体頻度を求めたものだ。

その結果の推定合体頻度は、原始ブラックホールが宇宙に存在する暗黒物質の約1000分の1を占めていると仮定すれば、LIGO-Virgoチームの観測結果に基づいて算出された値と(観測の統計的不定性の範囲で)一致することがわかった。この1000分の1という値は、先行研究で得られた、宇宙マイクロ波背景放射のスペクトル分布の観測から導かれる原始ブラックホールの存在量の上限値と同程度の値である。

原始ブラックホール連星の合体頻度
今回の研究で求められた、原始ブラックホール連星の合体頻度。暗黒物質における原始ブラックホールの占める割合(x軸)を変えたときの、原始ブラックホール連星の合体頻度(y軸)を表わす。x軸の値が1000分の1あたりでは、今回導いた合体頻度がLIGO-Virgoチームが発表した合体頻度と合うことがわかる(出典:東京大学プレスリリースより)

今回提唱された説は、連星を形成するシンプルな物理機構が内在しており、できあがった連星が宇宙年齢以内に合体するのに必要な離心率を持つことができるという点で非常に魅力的なものとなっている。今後、重力波や宇宙マイクロ波背景放射の観測データがさらに蓄積してくることで、今回提唱したシナリオが正しいことを確認できれば、初期宇宙の理解が一段と深まると期待される。

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