2012年天文ゆく年くる年

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【2012年12月28日 アストロアーツ】

今年も残りあと4日。一大ブームともなったあの天体ショーや大発見、相次いで公開された宇宙がテーマの映画作品など、様々な話題で溢れた2012年を天文ニュースとともに簡単に振り返ってみよう。


天文イベントのゴールドラッシュ

金環日食

5月21日の金環日食は多くの地域で天候に恵まれ、太陽のリングが目撃された。クリックで拡大(右上:門田健一撮影/左:川口雅也撮影/下:土肥利昭さん撮影/右下:星ナビ編集部撮影)

金星の太陽面通過

6月6日に観測された金星の太陽面通過。クリックで拡大(左:門田健一撮影/右上:国立天文台/JAXA提供/右下:星ナビ編集部撮影)

2012年はまれに見る天文現象の当たり年。特に5月21日の金環日食は天文ファン以外の人々も巻き込んで大きな話題となった。太陽観察の危険性や方法などが広く普及した年としても長く記憶されるのではないだろうか。

全国的に多くの人が日食観察に成功したことから、6月6日の金星の太陽面通過も「日食よりずっとレアな現象が起こる」という珍しさも手伝って盛り上がりを見せた。東日本では悪天候となったが、西日本では貴重な現象を多くの人々が楽しんだ。8月14日の金星食はあいにくの天候となった地域が多かったものの、これら3つの注目現象はロンドン五輪開催と併せて「天文“金”の年」というフレーズを生んだ。

毎年恒例の流星群、特にふたご座流星群は安定した出現数に加えて月明かりなどの条件も良く、冬の空を彩った。9月には、大彗星になると予想されるアイソン彗星(C/2012 S1)が発見され、2012年に比べて少々寂しくなると思われていた2013年に楽しみな話題を提供してくれた。

復興元年

リニューアルオープンした福島県田村市星の村天文台の望遠鏡

修理を経てリニューアルオープンした福島県田村市星の村天文台の望遠鏡。クリックで拡大(提供:星の村天文台)

東日本大震災の発生翌年でもあった2012年、休館を余儀なくされていた多くの被災施設が関係者らの多大な努力によって復旧にこぎつけ、地域との繋がりを改めて深めた。福島県田村市星の村天文台では、倒壊した口径65cm反射望遠鏡が新しい愛称「絆KIZUNA」を得て7月に復活した。一方では、津波による打撃に加え原発事故の影響から、再開の目処が全く立っていない施設も残っている。

復興への願いと犠牲者への祈りをこめて、「東北」「会津」など被災地の名前が付けられた小惑星が多く誕生した。

ヒッグス粒子発見? など謎にせまる成果

CERNでの記者会見

7月4日にCERNで行われた記者会見で、ヒッグス粒子発見の可能性が発表された。クリックで拡大(提供:CERN)

すばる望遠鏡がとらえた系外惑星

すばる望遠鏡がとらえたアンドロメダ座κ星の惑星(画像左上)。クリックで拡大(提供:国立天文台)

2012年を代表する科学ニュースとなったのは、何といってもヒッグス粒子と見られる新素粒子発見。この宇宙を構成する素粒子の解明に大きく近づいたことに興奮しながらも、いざ周囲の人に説明を求められて「うーん…」となってしまった宇宙好きも多いのではないだろうか。

系外惑星はその発見数が850個を超えた。直径が地球より小さいものや、ハビタブルゾーンに位置するものも見つかるようになってきている。直接観測による系外惑星の画像や原始惑星系円盤の鮮明な画像も目にすることができる。

宇宙の黎明期の超遠方銀河や、直接的な撮像を目指すブラックホールなど、観測技術の発達によって根源的な謎に肉薄する研究成果が期待を高める。ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡などが大きな成果を挙げる中で、2011年に初期観測を開始したアルマ電波望遠鏡も完成を前に、星の誕生現場の観測などで卓越した性能を発揮し始めている。

「キュリオシティ」など様々な太陽系探査が進行中

「キュリオシティ」が発見した、川の流れによって運ばれてきたと思われる丸い小石

「キュリオシティ」が発見した、川の流れによって運ばれてきたと思われる丸い小石。地球にも似た形状のものが見られる(右)。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/MSSS and PSI)

8月6日、NASAの探査車「キュリオシティ」が高度な着陸システムでの火星到達に成功。岩石や地形の調査で火星の水の歴史に迫る。35年前に地球を旅立った「ボイジャー1号」のデータはいよいよ太陽圏の果てが近いことを示している。2013年には人工物初の太陽圏脱出となるかどうか。「ドーン」は小惑星ベスタの観測を終え、次の目標である準惑星ケレスに向かう。

日本の話題としては、探査機「はやぶさ」が持ち帰った小惑星イトカワの微粒子の研究が行われ、その後継機「はやぶさ2」も2014年の打ち上げに向けて開発が進む。「あかつき」は、2015年か2016年の金星周回軌道入り再挑戦に向けて日々運用が続けられている。

星出宇宙飛行士がISS長期滞在

ISSに接近する「ドラゴン」補給船

10月11日、ISSに接近する「ドラゴン」補給船。5月の試験飛行に続いて初の本番運用となった。クリックで拡大((c) SpaceX)

船外活動中の星出宇宙飛行士

11月2日、ISSで船外活動を行う星出宇宙飛行士。クリックで拡大(提供:JAXA/NASA)

民間による宇宙時代到来を感じさせる話題も目立った。アメリカのSpaceX社が開発した輸送機「ドラゴン」が5月25日、民間宇宙機として初めて国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングに成功した。10月にはイギリスの歌手サラ・ブライトマンさんが、宇宙旅行会社との提携で2015年の宇宙飛行を目指すことを発表した。

日本人宇宙飛行士の星出彰彦さんは7月から11月までISSに長期滞在し、輸送機「こうのとり」3号機の受け入れや「きぼう」実験棟での様々な実験、3度にわたる船外活動など大車輪の活躍を見せた。2013年末からは若田光一さんのISS長期滞在が予定されている。

宇宙がテーマのエンタメ作品も充実

映画「天地明察」

江戸の天文学者、渋川春海の改暦までの道のりを描いた「天地明察」((c) 2012「天地明察」製作委員会)

宇宙関連の映画ラッシュが今年も続いた。まずは2011年に続く一連の探査機「はやぶさ」関連作品として、2月に「はやぶさ 遥かなる帰還」、3月には「おかえり、はやぶさ」が相次いで封切られた。

5月に人気漫画を原作とする「宇宙兄弟」、9月にはベストセラー小説を映画化した「天地明察」も公開され、映画館に足を運ぶ回数が増えたという宇宙ファンも多いのでは。「宇宙兄弟」のTVアニメ版も春から放映が続いている。

デジタルリニューアルが目立ったプラネタリウム

かわさき宙と緑の科学館

リニューアルオープンしたかわさき宙と緑の科学館。クリックで拡大(撮影:星ナビ編集部)

今年一番のトレンドスポット「東京スカイツリー」の複合施設にコニカミノルタプラネタリウム「天空」がオープン。多摩六都科学館(東京都西東京市)やかわさき宙と緑の科学館(神奈川県川崎市)といった各地のプラネタリウムがリニューアルオープンし、デジタル投影システムの導入が今年の傾向となった。明石市立天文科学館(兵庫県明石市)では、1960年に設置された旧東ドイツ製投影機が8月から「長寿日本一」の新たな記録を刻み始めた。

また、全国の天文施設とアストロアーツなどが共同で、プラネタリウム&公開天文台のポータルサイト「パオナビ」をオープン。観望会や講演会などあらゆるイベントも含め、気軽に天文に触れるための情報を提供している。

ステラナビゲータ20周年

20周年を迎えた「ステラナビゲータ」

20周年を迎えた天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ」。クリックで拡大

7月28日、アストロアーツの天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ」は発売から20周年という節目を迎えた。多くの方に天文シミュレーションの世界に親しんでいただけるよう、「20周年記念版」が期間限定で特価販売された。当時の開発秘話や製品へのこだわりと思い、また長年のご愛顧への感謝の意を様々な企画で表す機会ともなった。


2012年の訃報

トーマス・J・ジョンソン氏(3月13日。89歳)
天体望遠鏡メーカー「セレストロン社」の創業者(関連ニュース
森田耕一郎氏(5月7日。58歳)
国立天文台教授。アルマ望遠鏡など電波観測の技術研究に尽力(関連ニュース
サリー・ライド氏(7月23日。61歳)
米国初の女性宇宙飛行士。2度のスペースシャトルミッションに参加
ニール・アームストロング氏(8月25日。82歳)
米国の元宇宙飛行士。人類初の月面着陸を果たした(関連ニュース
パトリック・ムーア氏(12月9日。89歳)
イギリスの天文家。BBCの人気番組「The Sky at Night」のプレゼンターを半世紀にわたって務めた
浦田 武氏(12月15日。65歳)
小惑星観測の第一人者としてアマチュア天文界をリード

改めてその業績を偲び、哀悼の意を表します。

〈関連リンク〉

  • 星ナビ.com: 2012年12月号 さらばゴールデンイヤー トリプル金の2012年をふり返る

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