CERNの研究チームが新しい素粒子を発見 ヒッグス粒子か

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【2012年7月5日 CERN

素粒子物理学の標準モデルにおいて、他の素粒子に質量を与える役割を担うとされる「ヒッグス粒子」。イギリスのPeter Higgs氏が提唱して以来、半世紀にわたって検出が試みられてきた。4日、このヒッグス粒子とみられる新しい粒子の発見を2つの研究グループが暫定発表した。


CMS実験の様子

加速器内で陽子が衝突してヒッグス粒子が生まれ、2個の「ガンマ線光子」に崩壊する事象と考えられるデータ。クリックで拡大(提供:CMS)

7月4日にスイス・ジュネーヴ郊外の欧州原子核研究機構(CERN)で、ヒッグス粒子の探索実験グループATLASとCMSが最新成果の暫定発表を行った。2つのチームは、質量が125〜126GeV(ギガ電子ボルト)の新しい素粒子を発見した。

「データには、126GeV付近の新たな粒子の明らかな兆候が5σレベル(今回の結果が偶然である確率が300万分の1しかないレベル)で現れていました。CERNの粒子加速器LHCとATLASの目覚ましい働き、そして多くの人々の多大な努力によってここまで来ることができました。正式なリリースまではもう少しお待ちください」(ATLAS広報のFabiola Gianottiさん)。

「結果は暫定的なものですが、125GeV付近での5σシグナルは新しい粒子であることは間違いなく、これは大事件です。ボソン(素粒子の種類のひとつで、ヒッグス粒子もこれに属する)、しかもこれまででもっとも重いボソンであることは確実です。これが示しているものはとても重大です。だからこそ、調査照合を入念に行わなければなりません」(CMS実験の広報Joe Incandelaさん)。

「この結果に心踊らずにはいられません。『2012年にはヒッグス粒子の候補を見つけるか、あるいは標準モデルに基づくヒッグス粒子の存在を否定するか』というのが昨年の見通しでした。慎重は機したうえですが、このどちらかになるかがはっきりする時が来たと思っています。今回の新しい粒子の発見により、得られたデータをさらに詳細に調べていくことになります」(CERN研究ディレクターSergio Bertolucciさん)。

今回の発表は“暫定”のものである。基になっている2011年と2012年のデータのうち、2012年のデータの方は未だ解析中だ。4日に示された解析結果の正式なリリースは7月末で、今回の発見の全体像については、LHCでのさらなる実験を経て今年中に得られる見通しだ。

次のステップは、この粒子の性質や、宇宙の知見に対する意義を調べ、決定していくことだ。素粒子物理学の標準モデルで唯一見つかっていない幻のヒッグス粒子なのか? それとも何か未知のものなのか?「標準モデル」とは、この世界のすべてを構成し、またその相互作用を生み出す基本的な粒子についてのモデルだ。光で観測可能な物質はそのすべてのうち4%にしかすぎないが、ヒッグス粒子は残りの96%を理解する手がかりになる。

「私たちがすむ宇宙を理解するうえでの大きなマイルストーンに到達しました。ヒッグス粒子候補の発見から、さらに大規模な統計を行って新しい粒子の特性を決定しなければなりません。それにより、この世界のさまざまな謎に光があてられることでしょう」(CERN機構長Rolf Heuerさん)。

新しい粒子の確認には、まだまだ時間とデータが必要だ。だがヒッグス粒子がどのようなものであろうと、物質の基本的構造の理解に向けて大きな一歩を記そうとしているのは間違いない。

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