南緯45度の星空案内人
第18回 「眩いばかりの恒星と惑星」

Writer: 米戸実氏

《米戸実プロフィール》

1964年大阪生まれ。子供の時から南半球に興味を持ち始め、ハレー彗星はニューカレドニアへ。卒業後にニュージーランドへ冒険旅行に出て、旅行と南半球にすっかりはまる。両国の旅行会社に勤務し、現在クイーンズタウンでスターウオッチングツアーを運営する傍ら、オーロラ撮影に熱中。

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先日の12月1日、皆さんも日没後の西の空をご覧になったことでしょう。私も楽しみにしていました。マイナス4等の金星とマイナス2等の木星が並んで、そこに三日月までもが寄り添っていましたね。しかし、その日のニュージーランドではほとんどの場所が雲に覆われ、残念ながらその姿を見る事はできませんでした。ニュージーランドでは、このランデブーが完璧なスマイルマーク(左目に当たるのが金星で右目が木星、そして口を三日月)を作り出すはずでした。

その翌日は晴れ、スターウオッチングツアー中にこれらの天体を確認しましたが、既にスマイルマークは崩れ去っており、金星と月の移動の速さを実感させられました。10月初旬から宵の明星として金星を毎日のように見てきましたが、最初はてんびん座にいたと思ったのに、あっという間にさそり座に入り、いて座を通って、間もなくやぎ座に入ってきました。やはり内惑星は移動が速いですね。外惑星の木星もマイナス2等の輝きで、ツアーのお客様を楽しませてくれました。

ガリレオ衛星4つの名前を全部覚えているお客様は一人もいませんでしたが、ガニメデという名前だけはダントツに有名でした。何かの番組で使われたりしていたのでしょうか。そう言えばアニメで多々使われていますね。私の青春時代を飾った「宇宙戦艦ヤマト」もその一つです。

そのヤマトが放射能除去装置を受け取りに行った大マゼラン星雲も、ここクイーンズタウンでは肉眼で簡単に見えますが、知っている人に指摘してもらわないと、誰も星雲だとは思いもしないでしょう。一言で表現するならその姿は『動かない雲』。宇宙にある1000億個の銀河の一つで、我々の天の川銀河のすぐお隣の銀河なので、是非見ていただきたいです。ほとんどの人は南十字座にばかり注意していますが、肉眼で見える銀河が2つもある事をどうかお忘れなく。

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そう言えば、7年前に皇太子殿下と雅子妃殿下がニュージーランドにお越しになられた時、「殿下が久しぶりにこのマゼラン星雲をご覧になられたいが、どこに見えるのか・・・」といった問い合わせの電話を私の友人が受け取ったそうです。しかし、説明の甲斐もなく、お付きの人たちは理解できず、結局殿下に的確な場所を伝えられなかったそうです。お付きの方の横でこの出来事を見ていた私の知人は、後日私の前で「そうだ、あなたに聞けば良かったんだ」と、殿下に悪い事をしたと後悔していました。確かに電話で2つのマゼラン星雲の位置を説明するのは難しいです。

この2つのマゼラン星雲は、実は天の南極を探す時の目印にもなっています。第8回で小マゼラン星雲を使っての探し方をお話しましたが、もう少し簡単に説明すると、2つのマゼラン星雲を一辺として南十字星方向に正三角形を作ってみて下さい。その辺りに天の南極があります。これは3等級の大小マゼラン星雲が見えないと無理な探し方ですので、都会では不可能です。大航海時代のネオンがまったくばい海上では当たり前のように使われていたと思いますが、実は他の探し方と同様に少しずれています。他の探し方とは以下の通りです。

  1. 南十字の上と下の星を結んで一辺とし、それを下の星の方向に4.5倍延ばす
  2. 南十字の真横にいるケンタウルス座のα星とβ星を結び、そこに垂直二等分線を引く。そして先ほどの南十字の上下の星を結んだ直線との交点

なかには、りゅうこつ座の1等星カノープスとエリダヌス座の1等星アケルナルを一辺として正三角形を作った時の頂点・・・という方もいますが、これはかなりずれています。ちなみにニュージーランドの学校では、上の2番を採用して子供たちに教えているそうです。

いずれの方法も正確には天の南極をさしておらず、どのようにしても無理であることが分かります。大変ややこしいので、私は第8回でお伝えした小マゼラン星雲→うみへび座β星→はちぶんぎ座γ星3つ→はちぶんぎ座の台形→その先・・・といった具合に天の南極を探します。

赤道儀を高度45度(クイーンズタウンの緯度)に設定しておいて、天の南極方向に適当にセットすると、もう極軸望遠鏡の視野内には、毎回このはちぶんぎ座の台形を作り出す4つの星が入っています。北半球なら北極星を極軸望遠鏡の視野内に入れる事は簡単です。何故なら、北極星が2等星という大変明るい星だからです。何度も書いておりますが、はちぶんぎ座の台形は5等星と5等星で構成されていますので、この街の空のようにきれいで澄んでいないと見えません。みなさんで極軸合わせ競争をしてみて下さい。慣れてませんから、そりゃあ焦りますよ。私も1986年回帰のハレー彗星を撮りにニューカレドニアに行った時はかなり焦りました。当時は南半球対応の極軸望遠鏡を持っていなかったので大変でした。オマケに足元は砂浜だったし(笑)。過酷な初南半球でした。

さて、そんな暗い天体も簡単に見つけられるのは、この街が内陸に位置しており、空気が大変乾燥している事があげられます。勿論人口も12000人程度で、信号は一つもなし。横断歩道も数えるほどで、道路では車優先。運転している人は方向指示器を出さないし、16歳の若者から90歳を越えた高齢者も運転をし、目が悪い人も多く、酒気帯び運転さえも許されています。男性ならビール2.5本までは大丈夫だそうです。そんな田舎町クイーンズタウンで見る夜空の美しさは、きっとみなさんの想像を越えていますよ。

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そんな環境で見る夜空の中でも一際目立っているのが、やはり日没時間午後9時35分を大幅に過ぎてから見え始める1等星達です。ちなみに薄明終了は23時30分頃です。撮影をされるとなれば(年末年始は特に)、24時00分を過ぎてからシャッターを開けて下さい。

この時期、真夜中に見る夜空は素晴らしいです。前述の通り、恒星の明るさベスト3が同時に見えます。おおいぬ座のシリウス、りゅうこつ座のカノープス、ケンタウルス座のリギルケンタウルスがそれです。4月になれば北の空にうしかい座のアークトゥールスも昇ってきて、トップ4を同時に眺められます。天の川や星雲もおつな物ですが、これらの1等星も忘れてはなりません。肉眼で見るとさほど違いが感じられないかもしれませんが、望遠鏡のレンズを通して見ると、それはそれは別世界。

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とくに視直径が大きなベテルギウスは北半球とは位置が逆で、オリオン座の右下の星として知られています。通常右下の星と言えばリゲルですが、ここでは反対になります。視直径もさることながら実際の直径も地球の7万倍、太陽の650倍もの大きさがあります。地球が直径1センチの球であるなら、太陽は1メートル。そしてベテルギウスは650メートルにもなります。小さな山にも匹敵する大きさですね。このベテルギウスをツアーの最後に見ますが、綺麗なオレンジ色をしています。

それよりもこの澄んだ空気の中で見て欲しいのは、やはり前述のトップ3と金星、木星のマイナス等級の星々です。今、木星は地平線近くにいますが、この一年間、ずっといて座の南斗六星の横にあり、ニュージーランドが冬の間は天頂近くに居座って、随分首を持ち上げないと見られないくらいでした。そう、ここではいて座が天頂付近を通過するのです。

今年一番の収穫は、望遠鏡で見た木星とガリレオ衛星の姿でした。ツアーのお客様にも好評で、45倍程度の倍率でも立派に2本の縞模様が見えて、寄り添うガリレオ衛星を見る度に、ガリレオが望遠鏡を作ってこの衛星を発見してから、来年で400年にもなるのだと思うと、そんな昔に望遠鏡を作った人への尊敬の念を感じざるを得ません。

それにしても、マイナス0.8等のカノープスとマイナス1.5等星のシリウスを見ていると、眩しくて長い間接眼レンズをのぞいていられないのは何故でしょうか?一方、マイナス4等の金星や、マイナス2等の木星を望遠鏡を通して見ても、決してこうは思いませんね。シリウスは和名が青星(あおぼし)と名付けられていますが、私が大学生時代に京都市内で見たシリウスは既に青くはなかった覚えがあります。一体、いつごろ名付けられたのでしょう。もしかして室町時代?クイーンズタウンはそのころの澄んだ星空を保っているのかも知れません。

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カノープスは眩しくて、私が一番好きな星です。中国ではこのカノープスを見ると長生きができると言われていますが、毎日見ている私は一体何歳まで生きられるのでしょう。しかし、アイスクリームが大好きで、ここ何年もお腹が引っ込みませんので、そう先は長くないでしょう(笑)。

最後にリギルケンタウルスですが、我々の母なる太陽と同じ年齢で、大きさもスペクトルの種類まで同じと言いますから、距離も4.35光年ともっとも近く、宇宙から見るとまるで双子のように見えるのではないでしょうか?リギルケンタウルス自体が双子、伴星を入れると三つ子なので、太陽を含めると四つ子?この星は、45倍の倍率でも双子星と分かります。約50億年間も仲睦まじく寄り添って、2つの星が互いのまわりを回っています。ご夫婦の方、50億年も伴侶と寄り添えるなんてどう思いますか?えっ、懲り懲りですって?そういう方は、一度この星を見て、心を入れ替えて下さいませ。きっと、改心されると思います(笑)。

次回は「全てが逆さまの南半球」をお話します。

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