南緯45度の星空案内人
第12回 「デジカメの改造と赤いオーロラ」

Writer: 米戸実氏

《米戸実プロフィール》

1964年大阪生まれ。子供の時から南半球に興味を持ち始め、ハレー彗星はニューカレドニアへ。卒業後にニュージーランドへ冒険旅行に出て、旅行と南半球にすっかりはまる。両国の旅行会社に勤務し、現在クイーンズタウンでスターウオッチングツアーを運営する傍ら、オーロラ撮影に熱中。

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日本から9500キロメートルも南方に住んでいる関係で、私は未だに古い機材と仲良くして天体写真を撮っています。いくらインターネットで買い物が出来るといっても、その発送費などを考えるとどうしても重い腰が上がりません。画像処理ソフトもPhotoshop 6.0は使っていますが、ステライメージは持ち合わせていません。おまけにコンポジットという合成技術も未経験で、全てフィルム時代の「一発撮り」のままです。

そんな中、皆様の撮られた天体写真を拝見していると見事な作例が並んでおり、大変なご苦労をされている様子がうかがい知れます。中には見事な赤色星雲の作例もあり、そのほとんどが、いわゆる「赤外カット改造」をされたデジタル一眼レフカメラで撮られています。

水素が発する光の波長は656.3ナノメートルで、撮影すると赤色になることが知られています。昔のフィルムカメラしかない時代は、この赤色がごく普通に写るので気にもしなかったのですが、最近流行のデジタルカメラには、この赤色を軽減してしまうフィルターが内蔵されているらしく、赤い星雲、例えば南半球最大の赤色星雲であるエータカリーナなどは紫色に写ってしまいます。

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北半球でも沢山の赤色星雲が見られますが、一部の機種を除いてほとんどの一眼デジカメで撮影された赤色星雲は紫色に写っています。

もっとも、毎晩の様にスターウオッチングツアーで、エータカリーナ星雲をお客様と一緒に見ていますが、肉眼では赤色でもなく紫色でもなく、天の川と同様に白色に見えるのですが。もし赤色に見える方がいたら、赤外線域の光が見えていることになります。映画のワンシーンのように、赤外線ビームの間を潜り抜けて活躍できるかもしれません。

さて話が脱線しておりますが、それではこの赤色星雲の赤色をリアルに描写できる一眼デジカメがあるのか…と言えば、答えはYESだそうです。富士フイルム社製のFine Pix S5 Proという機種に関しては、この赤発色が他のカメラとはまったく違います。赤外カット改造を施された他の一眼デジカメとほぼ同等の赤発色が確認出来ます。昼間も普通に撮影出来てこの上ないカメラだと思います。

しかし、私はペンタックスユーザー。ニコンのレンズ群は一つもないし、このカメラに浮気をしたら、一からレンズも買い足さないといけません。ましてや小生はお給料をニュージーランド・ドルで頂いている身。日本の品物は「高嶺の花」なのであります。

そこで、一般の一眼デジカメを赤外カット改造して、少し安価に済ませようとするわけです。今では各社の下位機種でさえ1200万画素の時代になり、それを赤外カット改造しても、上記カメラよりもかなり安く手に入るようになりました。あっそうそう、こうして書いている私ですが、未だに改造されたカメラを持っていませんし、使った事もありませんのでご了承下さいませ(笑)。

しかし問題があります。改造をしてしまうと太陽光下での一般撮影には適さなくなる機種があり、出来たとしてもホワイトバランス調整などが必要となるようです。一般的には、改造されたカメラで人物を撮ると、皆さんが「赤い顔」をした酔っ払いに写るそうです。そりゃそうです。赤色を軽減するためのフィルターを取り去ったのですから、全てが赤く写って当然ということになります。

まあここまでは、多くの方が実践されている事なので新しい話でもないのですが、私の専門は「南半球のオーロラ」。オーロラ帯のほとんどが南氷洋、もしくは南極大陸上空を通る、まさに人が住んでいない地域に出現する「貴重な」オーロラです。

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実はこのオーロラも一眼デジカメでは太刀打ち出来ない事が多々あります。

北半球のオーロラは、人間が住んでいる地域のど真ん中をオーロラ帯が貫いており、少しの太陽風で簡単にオーロラが出現します。太陽風に含まれるプラズマが地表近くまで降り注ぐからです。色は緑色がほとんどで、ここクィーンズタウンのオーロラとは色が違います。

オーロラは高度80キロから600キロの上空に出現しますが、5色の発光を見せてくれます。

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下からピンク、緑、赤、紫、青の順番で、これが我々日本人の五感にかなり響きます。というのはですね、白人の方の多くは虹を見ても感動しないし、360度の全天オーロラが出現しても、「別に!」といった感じなのですよ。ツアー運転手の中には「どうして日本人のお客さんは虹が出現したくらいであんなに大騒ぎするのだ」と質問してくる方が少なくありません。私は逆に「あのような美しいものを見て、どうして感動しないのだ」と聞き返したくらいです。これはニュージーランド人の話なので、北半球のカナダやアラスカ、北欧の皆様はどうなのか知りませんが。

さてそのオーロラの色ですが、早い話、大気の中にある酸素と窒素とプラズマの衝突が原因で発光しているそうです。そして、やはり赤色に関しては、一眼デジカメの内部フィルターによって60%がカットされてしまうことが分かっています。オーロラの赤は波長が630.0nmで、水素の発する赤色656.3nmにかなり近いようです。

SpaceWeather.comに、過去数ヶ月間で撮影されたオーロラの写真が数多く投稿されていますが、キヤノンのEOS 1DS MarkIIIやニコンのD3など、受像素子がフルサイズの機種で撮影されたものも増えてきました。そして、ここ数ヶ月間はプラズマの流入が激しかったのか、素晴らしい写真が投稿されています。緑色オーロラがほとんどだというのに、その上に赤っぽいオーロラも写っています。しかしです、その色は赤色ではなく、紫色に脱色させられています。本当にもったいない写真だと思いました。全ては、一眼デジカメの中に赤外線域の光を透過しないフィルターが仕込まれているのが原因なのです。

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この2枚の写真は同じ夜に撮られたもので、左がコンパクトデジカメ、右がネガフィルムで撮ったものです。コンパクトデジカメの方には赤色なんぞ何処にも写っていません。

ですから私は未だにスライドフィルムを捨て切れていません。スライドフィルムは「ありのまま」を表現してくれますが、デジタルは未だその領域に達していないと思うからです。ひいきにしているペンタックスも同様に赤外カットフィルターが組み込まれていると思いますが、赤色ばかり出現するクィーンズタウンのオーロラには合っているかも知れません。実は他社製品に比べて、赤色オーロラの発色がフィルムに近いのです。もしかしたら総合的に色の表現が良いカメラなのかも知れません。ということで私のひいきはやはりペンタックスです。

さて皆様、これから太陽が活動期に入りますので、緑色オーロラの上にたびたび赤色オーロラが出現すると思います。肉眼で見えなくても、赤色オーロラが出現している場合がありますので、もし紫色に撮りたくなかったらスライドフィルムを使うか、改造されたカメラで撮るのが得策だと思います。ちなみに緑色オーロラは普通の一眼デジカメで十分写るそうです。

次回はニュージーランドの永住権について色々と書いてみたいと思います。

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