南緯45度の星空案内人
第10回 「これからの時期、南緯45度では」

Writer: 米戸実氏

《米戸実プロフィール》

1964年大阪生まれ。子供の時から南半球に興味を持ち始め、ハレー彗星はニューカレドニアへ。卒業後にニュージーランドへ冒険旅行に出て、旅行と南半球にすっかりはまる。両国の旅行会社に勤務し、現在クイーンズタウンでスターウオッチングツアーを運営する傍ら、オーロラ撮影に熱中。

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私がニュージーランドの地に第一歩を踏み入れて早19年。20年前のちょうど今頃は、大学の卒業がかかった大切な時期でしたが、ワーキングホリデイビザを使ってのニュージーランド冒険旅行の資金を集めるために日夜忙しい生活を送っていました。今ではこの南半球の夜空に魅了されてしまい、どこにも行きたくないとまで思っています。

ニュージーランド最大の都市、北島のオークランドへ来ないかという栄転話も何度かいただきました。最も迷ったのが「オーストラリアを任す」という話でした。必然と住居はシドニーとなる運命だったのでしょう。しかし「どちらの街に行っても、この素晴らしい夜空と完全に決別する運命を歩むことになる」「人口100万人を超えるオークランドと400万人を超えるシドニーでは、満天の夜空が拝めるわけがない」と、この貴重な話を断って現在に至っています。

ここクィーンズタウンは南緯45度03分。前回の原稿にも書きましたが、南十字が真っ逆さまになっても十字を作り出す4つの星すべてが、地平線よりも遥か上方に位置しています。これからの時期は気候も温暖で、こうして原稿を書いている今も気温が28度もあります。しかし「一日の間に四季がある」と言われるように、夜はぐっと気温が下がります。朝方には摂氏10度を下回ってくることもしばしばですが、これがブドウを熟成させる要因になっています。

昔、このセントラル・オタゴでブドウなど寒くて育つはずがないと言われていましたが、やってみなければわかりませんね。今では世界でも名だたるワインの産地になりました。そんなワインを飲みながら見る夜空は、また格別な思いがしてきます。

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それではこれから数か月も続く贅沢な夜空のご案内をしましょう。その前に流れ星が見えた時の願いごとと、この夜空に合うワインを選んでおいてください。しかし年末年始の日没は遅いので、真夜中の深酒は避けるためワインはあっさりしたものを選んでください。

薄明中だというのに、その存在がわかる明るい星が多く並んでいます。西の空にはみなみのうお座の1等星フォーマルハウトから始まり、エリダヌス座のアケルナル、すぐ近くには肉眼で見える最も遠い天体だと思いますが、大マゼラン星雲と小マゼラン星雲が並んでいます。この2つの星雲の延長線上には、全天で2番目に明るい恒星、りゅうこつ座のカノープスがあります。中国では南極不老星と呼ばれていて、カノープスを見ると長生きができると言われていますが、毎日見ている私は一体何歳まで生きるのでしょうか?

このカノープスは、日本では2月ころに地平線ギリギリに赤く見えるそうですが、ここではまさに200カラット、いや1万カラットのブルーダイヤモンドを思わせるように青白く、眩く輝いています。ほとんど天頂近くにあるので、見る前に首をぐるぐる回して準備運動をお忘れなく。スターウオッチングツアーに参加のお客様のなかには、時々首の調子が悪くなる方がいるくらいです。

そうそう天の川の華やかな部分を忘れちゃいけませんね。方角は南東の空になります。4つの1等星が集まって見えている部分ですね。ケンタウルス座の2つの1等星のなかで、右側が地球から4.4光年の恒星リギルケンタウルス、左側には525光年先のハダル。すぐ左上にはみなみじゅうじ座の2つの1等星アクルックスとべクルックスがあります。

全天には88の星座がありますが、1等星は21個しかありません。1等星を1つも持たない星座ばかりですが、ケンタウルス、みなみじゅうじの2つの星座には、贅沢にも1等星が2つもあります。

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そこからは天の川をたどって北の空に進むと、目につくのが全天で一番明るい恒星シリウス。明るさはマイナス1.5等、距離は8.6光年。先に紹介したカノープスのマイナス0.8等よりも明るいので、望遠鏡で見たとき網膜を火傷されないようにご注意くださいませ(笑)。ちなみに大学時代に日本で見たシリウスとは月とスッポン。微粒子の多い日本の空と違って、本物のシリウスを見ている感じがします。そして冬の大三角、こいぬ座のプロキオンがあり、真っ逆さまのオリオンへとつながっていきます。1等星リゲルとベテルギウスの位置が、日本と完全に反対ですが、逆さまでもその姿がオリオンと分かるからすごいです。

さらに右下にはふたご座ポルックス、左下にはおうし座のアルデバランが輝いています。残念ながらぎょしゃ座のカペラだけは地平線の下。もう十数年、お目にかかっていません。ですので冬の大六角はここではギリギリ見られません。

しかし2008年早々には、その周辺に火星が昇ってきていますので、それはそれは賑やかな満天の星を見ることができるでしょう。来年2月以降は東の空にしし座のレグルスとその側に土星も昇ってきます。

まとめると、クィーンズタウンではこうなります。

  • 光度ベスト3の恒星が見えます
  • 一等星を2つ以上持つ星座が3つとも見えます
  • これから夏を迎え、大変よい季節になります
  • 空気が大変きれいなので、星々は輝きまくっています
  • 大マゼラン星雲、小マゼラン星雲、両方とも殆ど真上に位置して見えやすくなります
  • 地平線低くに寝そべっていた天の川が起き上がってきます

言い始めればきりがありませんが、スターウオッチングツアー中にはこんなに紹介したい天体があるのです。

今晩もツアーで多くのお客様に出会いました。午後10時のツアー開始時には気温が21度もありましたが、ツアー終盤にはお約束通り寒いと言われる方が出てきました。私は動いていますし、またアイスクリームを大量摂取しているおかげで肉襦袢をまとっていて、長袖のラグビージャージでは暑く感じ、腕をまくって案内をしていました。ここ2日間は暑かったですが、いつもこうとはかぎりません。夏でも夜間は冷えることがありますので、星をご覧になられたい方は、必ず厚着をしてご参加ください。それとデジタルカメラで星を撮ってみられたい方は、夜景モードか星空モードにすぐに設定できるようにしてください。

さて星の話ばかりしてきましたが、これから夏を迎えるクィーンズタウンではやはりアウトドアで楽しみたいですね。BBQでビールを片手に仲間と話したり、湖の最北端の街グレノーキー(人口60名)までレンタカーで行って、一日中自然の中で過ごしたりするのもいいでしょう。この街には120社を超えるアクティビティの会社がありますが、ジェットボートに乗って雄叫び、絶叫するのはいかがでしょうか。

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クィーンズタウンはこのような街ですが、日本のお客様のほとんどは2泊しかされません。寂しい限りです。5000泊もしている私が言うのもなんですが、ここは楽しい街です。それより、久しぶりに大きな太陽黒点が出現してきたようですね。人工衛星を管理している方には申し訳ないですが、フレア爆発を期待しちゃったりしています。なぜならその影響で太陽風がインパクトすれば、この街は全天真っ赤なオーロラに埋め尽くされるからです。次回のフレア爆発はいつになるのでしょうか?

次回は南半球から見える星座の名前にスポットを当ててみたいと思います。北半球に比べると、格好悪い星座名が多いですよ。

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