系外惑星の大気からヘリウムを初検出
【2018年5月11日 Hubble Space Telescope/エクセター大学】
英・エクセター大学のJessica Spakeさんたちの研究チームが、おとめ座の方向約200光年の距離にある系外惑星「WASP-107 b」をハッブル宇宙望遠鏡で観測し、この惑星の大気からヘリウムを検出した。「宇宙でヘリウムは水素に次いで2番目に多い元素で、太陽系内では木星や土星を構成している主な物質の一つです。系外惑星の大気についてもヘリウムは探索されてきましたが、これまで検出されたことはありませんでした」(Spakeさん)。
主星の前を惑星が通り過ぎる際に、主星の光が惑星の大気に吸収されて生じるスペクトルの変化を調べると、惑星大気の化学組成を知ることができる。Spakeさんたちは、WASP-107 bの大気の赤外線スペクトルを分析することでヘリウムを検出した。これまで、系外惑星の大気成分は紫外線や可視光線のスペクトルを調べることで検出されてきたが、今回の成果は、赤外線のように長い波長での観測も系外惑星大気の研究に有効であることを示すものだ。
主星「WASP-107」(背景)の前を通過する系外惑星「WASP-107 b」(手前)の想像図(提供:ESA/Hubble, NASA, and M. Kornmesser)
「今回、ヘリウムの強い吸収線を観測できたことで、この新しい手法を使えばこれまでよりも幅広い系外惑星で上層大気を研究できることがわかりました。紫外線を使う従来の方法で調べられるのは、地球から非常に近い惑星に限られます。地球の上層大気にもヘリウムは存在していますから、私たちの新しい手法は、従来の技術では非常に難しかった地球サイズの系外惑星を取り巻く大気の検出にも役立つかもしれません」(Spakeさん)。
WASP-107 bは、これまで知られている中で最も密度の低い惑星の一つで、大きさは木星とほぼ同じだが、質量は木星の12%しかない。今回検出されたヘリウムの量がかなり多いことから、この惑星の上層大気は惑星本体の半径に匹敵する高度数万kmにまで広がっていると考えられる。今回の発見は、このように大きく広がった惑星大気が赤外線観測で見つかった初めてのケースでもある。これほど大気が広がっていることから、この惑星の大気物質は10億年で総質量の0.1~4%を失うほどの速さで宇宙空間へ流出していると推定される。
惑星から大気が逃げる速度に大きな影響を与えているのは主星からの放射だ。惑星系の主星であるWASP-107は非常に活発な恒星で、惑星の大気の流出を促進している。主星からの放射を惑星大気が吸収すると大気の温度が上がり、急速に膨張して大気がいっそう速く宇宙空間へと流れ出すのだ。
「将来稼働するジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などの望遠鏡と私たちの新しい観測手法を組み合わせれば、系外惑星の大気分析がこれまでよりもはるかに詳細にできるようになるでしょう」(エクセター大学 David Singさん)。
〈参照〉
- Hubble Space Telescope:Hubble detects helium in the atmosphere of an exoplanet for the first time
- University of Exeter:Helium detected in Exoplanet atmosphere for the first time
- Nature:Helium in the eroding atmosphere of an exoplanet 論文
〈関連リンク〉
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