17億個の星の地図が完成、ガイアの第2期データ公開

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ヨーロッパ宇宙機関の宇宙望遠鏡「ガイア」の観測天体を収録した過去最大のカタログが公開された。約17億個の恒星データが含まれ、天の川銀河の詳細な姿を明らかにするものだ。

【2018年5月1日 ヨーロッパ宇宙機関

「ガイア」は2013年12月に打ち上げられた、ヨーロッパ宇宙機関 (ESA) の位置天文観測(アストロメトリー)専用の宇宙望遠鏡だ。天の川銀河の星々の正確な位置や距離を測定して3次元地図を作成することを目的としている。最初の約1年分の観測に基づくカタログ (Gaia Data Release 1; DR1)は2016年に公開された。これには約11億個の恒星の位置と明るさのデータが収録されていたが、恒星の距離と速度のデータ数は200万個分にとどまっていた。

今回公開された新たなデータ(Gaia Data Release 2; DR2)は2014年7月から2016年5月までの観測に基づき、約17億個の恒星の位置と明るさを非常に高い精度で決めている。これは約2000億個ともいわれる天の川銀河のすべての星のおよそ1%に達する個数だ。収録されている星のうち最も明るいグループの位置測定の精度は20〜40マイクロ秒角で、これは月面に置かれた1ユーロ硬貨(直径約2.3cm)を地球から見たときの大きさに等しい。

ガイアの観測データによる天の川銀河の全天図
ガイアカタログの17億個の恒星データをプロットして作成した天の川銀河の全天図。銀河面に重なっている暗い領域は星間ガスと塵からなる雲。画面右下の星の集まりは大小マゼラン雲。画像クリックで表示拡大(提供:ESA/Gaia/DPAC)

きわめて高い精度の位置測定ができたことで、恒星の年周視差(地球が太陽の周りを公転するために恒星の見かけの位置が1年周期で動く現象)と、固有運動(恒星が天の川銀河の中を移動することで生じる真の動き)についても非常に高い精度で測定することが可能になった。DR2には13億個以上の恒星の年周視差と固有運動のデータが収録されており、年周視差の大きさから星までの距離も直接見積もることができる。

「ガイアの前身で世界初の位置天文衛星だったESAの衛星『ヒッパルコス』は、約30年前のサーベイ観測で11万8000個の恒星データを取得しました。DR2ではヒッパルコスのデータに比べて、きわめて大きな飛躍を遂げました」(オランダ・ライデン大学 Anthony Brownさん)。

DR2は天文学のコミュニティに幅広いトピックを提供するものになっている。

カタログには恒星の位置と明るさに加えて、ほぼすべての恒星の色の情報や、約50万個の変光星の光度変化・色の変化のデータも含まれている。また、恒星の視線速度が700万個分、表面温度データが約1億個分、星間塵による減光・赤化のデータも8700万個分が収録されている。

ガイアは恒星だけでなく太陽系の天体も観測している。DR2には1万4000個以上の小惑星の位置データも含まれ、これらの小惑星の軌道を正確に決定することができる。将来のリリースではさらに多くの小惑星データが収録される見込みだ。

さらに、約50万個の遠方のクエーサー(超大質量ブラックホールの活動によって明るく輝く銀河)の位置も測定されている。クエーサーはガイアカタログのすべての位置データの基準となる座標系を定義するのに用いられる。

今後、Gaia DR2のデータが使われることで様々な発見がもたらされることが期待される。ガイア・ミッションのデータ処理・解析チームによって行われたデータチェックの段階で、早くも以下のような科学的に興味深い成果が得られている。

  • 太陽から5000光年以内にある400万個の恒星のデータから、これまでで最も詳しい太陽近傍のHR図が作られた。その結果、白色矮星に異なるタイプが存在する兆候が見えている。これは白色矮星の中心核が水素に富んでいるかヘリウムに富んでいるかの違いを示すものかもしれない。
  • DR2カタログの恒星の速度データから、天の川銀河のハローに属すると思われる高速度星が2つのグループに分かれることが示唆されている。それぞれ異なる形成過程で生まれた星々かもしれない。
  • 太陽近傍の星々が天の川銀河の中を公転する運動の中に、あるパターンが見られる。このパターンは天の川銀河の棒構造によって生じる摂動と関連がある可能性がある。
  • DR2カタログのデータは天の川銀河の周りを回る75個の球状星団や12個の矮小銀河の軌道を求めるのにも使われた。これらは天の川銀河の過去の進化や環境、重力場や、銀河の中に広がるダークマターの分布を研究する上で重要な情報をもたらすものだ。

「ガイアは過去最高精度の天文学をもたらします。研究者は今後何年もの間、このデータを研究するのに忙しくなるでしょう。このデータによって天の川銀河の秘密を明らかにするような驚くべき発見が相次ぐのを待っています」(ESA ガイアミッションマネージャー Fred Jansenさん)。

(文:中野太郎)

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