AIを使った遠方銀河の「顔認識」

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ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された遠方銀河の画像に深層学習アルゴリズムを適用することで、その銀河の進化段階を判別するという研究成果が発表された。天文学における高度なAI活用時代の始まりだ。

【2018年4月27日 カリフォルニア大学サンタクルーズ校

機械学習の手法である「深層学習(ディープ・ラーニング)」は、顔認識などの画像認識や音声認識の分野で幅広く使われている。仏・パリ天文台のMarc Huertas-Companyさんたちの研究チームは、銀河の画像を解析して銀河の形成や進化を理解する研究にも深層学習が役立つことを示す成果を発表した。

銀河では複雑な物理現象が起こっており、数十億年にわたる進化で見た目が変化していく。銀河の画像は、ある時点での銀河の状態を抜き出したものに過ぎない。より遠くの宇宙を見れば、時間をさかのぼってより遠い過去の銀河の姿を見ることができるが、ある一つの銀河が時間とともに進化する様子を追うには、数値シミュレーションに頼るしかない。シミュレーションで再現された銀河と実際に観測される銀河を比べることで、実際の銀河の重要な細部や、その銀河がたどってきたであろう歴史を明らかにすることができる。

研究チームは、ガスが豊富な銀河のシミュレーションで進化の初期に現れる、ある現象に着目した。銀河中心部に大量のガスが流れ込み、小さくて密度の高い「ブルーナゲット(青い塊)」と呼ばれる青色の星形成領域が作られるのだ。若い高温の星は波長の短い青い光を放つため、青い色はその銀河で活発な星形成が起こっていることを示している。ブルーナゲットの段階にある銀河は、やがて中心領域での星形成が止まり、年老いた低温の星が相対的に増えることで、赤い光を多く放射する「レッドナゲット」と呼ばれる小さな赤い塊を持つ段階へと移行する。

Huertas-Companyさんたちはまず、数値シミュレーションを用いて、遠くの銀河をハッブル宇宙望遠鏡(HST)で撮影した場合に得られるような形成初期の銀河の模擬画像を作成した。次にこの模擬画像を使って、画像に写っている銀河が、ブルーナゲット段階以前/ブルーナゲット段階/ブルーナゲット段階後(レッドナゲット段階)の3段階のどれに当たるかを深層学習システムに学習させた。その上で、HSTが撮影した実際の銀河画像をこのシステムに与えて、画像の銀河がどの進化段階にあるかを分類させてみた。

シミュレーションとHSTによる銀河
(上段)数値シミュレーションで再現された若い銀河。左から「ブルーナゲット」の形成前、形成中、形成後。(中段)上段の画像をHSTで観測した場合の見え方に近い状態に加工したもの。(下段)深層学習アルゴリズムによって、それぞれ「ブルーナゲット」の形成前、形成中、形成後の段階にあると分類された遠方銀河の画像(提供:(上2段)Greg Snyder, Space Telescope Science Institute, and Marc Huertas-Company, Paris Observatory、(最下段)The HST images are from the Cosmic Assembly Near-infrared Deep Extragalactic Legacy Survey (CANDELS))

その結果、この人工知能(AI)システムは実際の銀河の画像を模擬銀河と同じくらい正しく分類することができた。「AIによる分類がこれほどうまくいくとは思っていませんでした。このシステムの能力には驚いています。シミュレーションには様々な制限があるものなので、今回の結果から確実に何かを言えるというほどではありませんが、これがまぐれ当たりだとは考えていません」(米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校 Joel Primackさん)。

深層学習プログラムの分類結果を調べると、シミュレーション画像のデータと観測データのどちらについても、ブルーナゲット段階にあると判定された銀河は質量がある一定の範囲に限られていた。銀河の質量がどちらの画像セットの場合でも一貫しているのは興味深い成果だ。これはつまり、この深層学習アルゴリズムが、単純な見かけの類似だけでなく、実際の銀河で起こっている物理過程で生じたパターンをカギとして画像を識別できていることを示唆している。

今回の研究チームが利用した実際の銀河の画像セットは、可視光線と赤外線の両方の波長で遠方の銀河をサーベイ観測する「CANDELS」プロジェクトで得られたものだ。CANDELSの共同研究者である米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校のDavid Kooさんは、深層学習には潜在的な可能性が秘められているという。「深層学習は対象のパターンを探します。機械は人間が認識できないほど複雑なパターンを見分けることができます。この手法についてはもっと多くのテストを行いたいと考えていますが、今回の概念実証研究でも、異なる進化段階にある銀河を実際の銀河画像データでうまく識別できたようです」(Kooさん)。

近い将来、大規模サーベイ観測プロジェクトや「大型シノプティック・サーベイ望遠鏡(Large Synoptic Survey Telescope; LSST)」、「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope; JWST)」、「広視野赤外線サーベイ望遠鏡(Wide Field Infrared Survey Telescope; WFIRST)」などの新しい望遠鏡によって得られた大量の観測データを解析する必要が出てくる。深層学習やその他の機械学習の手法は、こうした膨大なデータを分析・理解するための強力なツールとなるだろう。「天文学に高度な人工知能を利用する、エキサイティングな時代の始まりです」(Kooさん)。