ホットサターンの大気に大量の水
【2018年3月9日 NASA】
おとめ座の方向約700光年の距離に位置する系外惑星「WASP-39 b」は、質量は土星程度だが、多くの点で土星とは大きく異なる惑星である。穏やかな太陽のような中心星からは、地球から太陽までの20分の1しか離れておらず、WASP-39 bはその中心星の周りをわずか4日で公転している。
中心星までの距離が非常に近いため、WASP-39 bは潮汐固定され、常に同じ面を中心星に向けている。惑星の昼側の温度は摂氏770度ほどの高温で、強い風によってその熱が惑星全体に運ばれるため、永遠に日の当たらない夜側も高温になっている。「ホットサターン」(高温の「土星のような惑星」)と呼ばれてはいるが、環は存在していない。
WASP-39 bの想像図。左は、中心星WASP-39(提供:NASA, ESA, and G. Bacon (STScI))
宇宙望遠鏡科学研究所のHannah Wakefordさんたちの研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)と赤外線天文衛星「スピッツァー」を使った観測によってWASP-39 bからの光のスペクトルを中心星の光から分離し、現在の技術で得られる最も完全な系外惑星のスペクトルを取得した。
その結果、WASP-39 bの大気中に水が存在することをはっきりと示す証拠となる吸収スペクトルが検出され、水蒸気として存在している水の量が土星の3倍もあることがわかった。WASP-39 bに水があるだろうと予測されてはいたものの、これほど多いのは予想外だったという。
WASP-39 bのスペクトル。(縦軸)吸収スペクトルの相対的な強度(物質量をppm単位で換算)、(横軸)μm単位で示した波長と、その波長の吸収スペクトルが示す物質(提供:ASA, ESA, G. Bacon and A. Feild (STScI), and H. Wakeford (STScI/Univ. of Exeter))
大量の水が存在していることから、WASP-39 bは中心星から遠く離れた、大量に凍った物質が存在する場所で成長した惑星であり、土星とは異なる進化過程を経てきたと考えられる。WASP-39 bのような惑星は太陽系内には存在しないが、この惑星を研究することで、惑星がどこでどのように形成されるのかに関する新たな情報を得ることができる。
「太陽系を理解するには、外に目を向ける必要があります。しかし、系外惑星の観測からは、私たちが考えていた以上に惑星の形成は複雑でわかりにくいことが明らかになってきています。実に面白いことです!」(Wakefordさん)。
Wakefordさんは、2019年に打ち上げが予定されているジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を使ってWASP-39 bのより完全なスペクトルを得たいと願っている。JWSTでは、惑星の大気中に存在する、HSTが観測できる赤外線よりも長い波長の赤外線を吸収する炭素に関する情報を取得できる。大気中の炭素や酸素の量がわかれば、惑星がどこでどのように形成されたのかに関するより多くの情報が得られるだろう。
〈参照〉
- NASA:NASA Finds a Large Amount of Water in an Exoplanet's Atmosphere
- The Astronomical Journal:The Complete Transmission Spectrum of WASP-39b with a Precise Water Constraint 論文
〈関連リンク〉
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