半球ごとに決まっていた、太陽のダークフィラメントの磁場構造
【2018年1月19日 国立天文台 三鷹太陽地上観測】
太陽表面では「プロミネンス」と呼ばれる低温のガスがコロナ中に浮いている。プロミネンスが浮いているのは、太陽内部の流体運動により大規模な磁場を生成・維持している働き(ダイナモ作用)で作られた磁場が表面に現れ、プロミネンスを支えているためだ。プロミネンスが太陽の中央付近に来ると、プロミネンスの物質が光球からの光を吸収して暗くなり「ダークフィラメント」として見えるようになる。
国立天文台太陽観測所の桜井隆さんと国立天文台太陽観測科学プロジェクトの花岡庸一郎さんは、ダークフィラメントの磁場がどの方向を向いているのかを明らかにするために統計的な調査・研究を行った。
桜井さんと花岡さんは、国立天文台三鷹キャンパスの太陽フレア望遠鏡で2010~2016年に観測された438個のダークフィラメントに関する情報を選び、フィラメントの磁場がどちらを向いているのかを調べた。水素のHα線でのフィラメントとヘリウム直線偏光で見たフィラメント磁場を比較したところ、フィラメント磁場はHα線で見えるフィラメント中の微細構造に平行であり、全体としてフィラメントの軸方向から若干時計回りの角度で整列していることがわかった。
2014年11月23日に観測された北半球のフィラメント。(a)はHα線での画像、(b)は磁場の方向を赤い線で示した画像(背景は光球磁場)。(右下隅)フィラメントの軸方向を実線、磁場の平均的な方向を点線で示しており、磁場がフィラメント軸から時計回りにずれていることがわかる(提供:国立天文台、以下同)
またそれぞれのフィラメントについて、太陽面上の緯度と、平均的な磁場方向のフィラメントの軸からの傾きを比較したところ、磁場がフィラメントの軸から、北半球では時計回りに、南半球では反時計回りに、つまりいずれも西側が赤道へ向かうように回転していることが示された。
(左)今回調べられた438個のフィラメントの出現緯度と平均的な磁場方向のフィラメント軸からのずれ角の比較(シンボルの色や形はそれぞれのフィラメントの特性を示すもので、詳細は省略されている)、(右)左の図の各象限でのフィラメント(赤)における磁場(黒実線)の傾きを模式的に示したもの
今回の研究により、フィラメントの磁場構造はそれぞれ勝手に生成されているわけではなく太陽内部の大きな構造の磁場を反映していて、おおむね半球によって決まる構造を持っていることが明らかになった。フィラメント磁場の観測が、ダイナモで生成された太陽内部の磁場から表面磁場への発展や、フィラメントの生成・噴出を解明するための重要な情報をもたらしてくれることを示す成果である。
〈参照〉
- 国立天文台 三鷹太陽地上観測:ダークフィラメントの磁場は半球ごとに決まった方向を向いている
- The Astrophysical Journal:Statistical Study of the mangenic field orentation in solar filaments 論文
〈関連リンク〉
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