気球から観測、かにパルサーの硬X線偏光

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直径100mの大気球による北極圏上空40kmからの観測で、超新星残骸「かに星雲」の硬X線の偏光が検出された。

【2017年8月14日 広島大学

地球には宇宙線と呼ばれる高エネルギー粒子が降り注いでいる。宇宙線の生成現場は天の川銀河内の超新星残骸やパルサー、天の川銀河外の活動銀河核などと考えられているが、宇宙線を加速するメカニズムには未解明な点がある。その一つが、生成現場における磁場の強度と方向だ。

磁場の強度や方向を調べるのに有効なのが偏光観測で、イメージとして見ることのできない天体の磁場情報や、イメージでは空間分解できないような微小な構造・物理を調べることができる。しかし、とくにX線やガンマ線の波長での観測は検出器の技術的な困難などから、これまでに精度の良い偏光観測はほとんど実施できていなかった。

広島大学の高橋弘充さんをはじめとする日本とスウェーデンのPoGO+(ポゴプラス)国際共同研究グループは、2011年から2016年の間で3回にわたり、直径100mに膨らむ大気球をスウェーデンから放球して上空40kmからX線の偏光観測を行ってきた。気球実験は人工衛星よりも機会を得やすく、技術改良や大型の観測機器の性能向上などをしやすいという利点があり、これらのメリットを活かした研究といえる。

気球のカメラがとらえた地表
40km上空から気球のカメラがとらえた地球(提供:スウェーデン宇宙公社)

昨年の3回目のフライトで、おうし座の超新星残骸「かに星雲」からの硬X線放射の偏光観測を実施したところ、この波長帯域において世界で初めて信頼性の高い偏光情報を得ることに成功した。これまで観測されていた、1桁エネルギーの低いX線の偏光情報とおおむね一致するものだ。

かに星雲
かに星雲(撮影:ひでさん。画像クリックで投稿画像ギャラリーのページへ)

硬X線を放射している宇宙線はX線の場合に比べて、エネルギーを失ってしまう寿命が3分の1と短いため、かに星雲の中心のパルサーに近い領域から放射されていると考えられる。今回の偏光観測の結果は、パルサーに近く磁場の向きが整っており偏光度も高いと予想されていた場所ですでに磁場の向きが乱れていることを示すもので、中心から遠ざかるにつれ磁場の向きが徐々に乱されていくという仮定と矛盾している可能性を示唆している。

今後、X線天文衛星「ひとみ」などの観測データや理論研究から、かに星雲の磁場構造などが明らかになり、高エネルギー宇宙線の加速メカニズムについて理解が進むと期待される。

また、気球の3回目のフライト中にはブラックホール連星系「はくちょう座X-1」の偏光観測も実施されており、恒星からブラックホールへと吸い込まれていく物質の幾何学的な構造を明らかにすることを目指して解析が進められている。