衛星「タイタン」に、生命に関わる2種の分子

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土星の衛星「タイタン」に興味深い2種類の分子が発見された。一つは地球上の原始的な生物を作る基となったもの、もう一つは細胞膜のような微小な球体を自然に作る可能性のあるものだ。

【2017年8月2日 ヨーロッパ宇宙機関アルマ望遠鏡

土星の衛星「タイタン」の大気は窒素とメタンやエタンなどの炭化水素を主成分とし、さらに複雑な有機分子も含まれている。研究者の注目の的となっているこの大気の観測から、生命に関わりがあると考えられる2種類の分子が発見された。

タイタンの上層大気
タイタンの上層大気(天然色)(提供:NASA/JPL/Space Science Institute)

発見された2種類の分子うちの一つは「炭素鎖陰イオン」というマイナスに帯電した分子だ。複雑な分子を作る材料であり、地球上で原始的な生物の基礎となったのではないかと考えられている。マイナスの電気を帯びた粒子の仲間(陰イオン)は非常に反応しやすく、タイタンの大気中ではそう長くは存在できないはずと考えられていたことから、この発見は予想外のことであり、タイタンの大気に関する理解を完全に書き換えることとなった。

炭素鎖陰イオンは、土星探査機「カッシーニ」がタイタンの上空950~1300kmの上層大気中を飛行した際に検出された。タイタンの表面に接近すると炭素鎖が激減する一方で、より大きなエアロゾル分子が急速な成長を見せており、両者の間には密接な関係があることが示唆される。

「惑星のような環境で初めて炭素鎖陰イオンの存在を確認しました。同物質はタイタンのもやを構成する大きな粒子のような、より大きく複雑な有機分子を生み出す一連の流れに不可欠なものであると考えています」(英・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン Ravi Desaiさん)。

「恒星間物質中では、このような分子の形成は既知のプロセスですが、それとはまったく異なる環境で同じプロセスが起こっていたのです。つまり、複雑な分子の形成プロセスが普遍的なものである可能性を示しています。冥王星やトリトンにある窒素とメタンから成る大気中や、同様の特徴を持つ系外惑星でも同じことが起こるかという疑問もあります」(Desaiさん)。

タイタンの大気中に発見された別の分子は、シアン化ビニールとも呼ばれるアクリロニトリルだ。NASAゴダード宇宙センターのMaureen Palmerさんたちの研究チームが、アルマ望遠鏡によって2014年2月から5月の間に観測されたタイタンのデータを解析したところ、アクリロニトリルがタイタンの大気中に相当量含まれていることが明らかになった。アクリロニトリルの存在はカッシーニの観測やタイタンの大気を模した実験から示唆されていたが、アルマ望遠鏡のデータによって裏付けられたことになる。

アクリロニトリルの模式図
タイタンで見つかったアクリロニトリルの模式図。「カッシーニ」が可視光線で撮影した大気と赤外線で撮影した表面の画像を合成(提供: NASA/JPL/Space Science Institute)

タイタンではメタンの雨が降って地表に川や湖を作っており、そこには有機物が豊富に含まれている。こうした環境にアクリロニトリルがあると、アクリロニトリル分子が数多く連なることで、細胞を取り囲む細胞膜のような構造が自然にできるとする考え方がある。「メタンが液体になるような環境にアクリロニトリルが存在しているということは、地球生命の発生に重要な役割を果たした化学反応が、タイタンでも起こり得ることを示すものです」(Palmerさん)。

タイタンの大気中では、太陽光と土星周囲の高エネルギー粒子をエネルギー源として様々な化学反応が起こっており、単純な有機分子がより複雑で大きな有機分子へと変身している。「タイタンの大気で起こっている化学反応の理解が進むにつれて、複雑な有機分子も自然に合成されることが明らかになってきました。初期の地球大気でも同じことが起こったと思われますが、大きな違いもあります」(NASAゴダード宇宙センター Martin Cordinerさん)。

大きな違いの一例としては、タイタンは形成時から一貫して地球よりもずっと低温の環境にさらされているという点がある。タイタンの温度はおよそマイナス180度で、水が表面にあったとしても凍ってしまう。また、初期の地球大気は二酸化炭素を豊富に含んでいたとされているがタイタンにはその証拠がない点や、地球の表面は火山や隕石衝突などによって活動的な状態にあり、これが大気の進化に影響を及ぼしたと考えられるが、タイタンの氷の地表は非常に穏やかだとみられている点も違いとして挙げられる。

「今後もアルマ望遠鏡でタイタンの大気をより詳しく調べる予定です。これまで見つかっていない、もっと複雑な有機分子を探すと同時に、タイタンの大気循環を調べるのです。将来的には、この興味深い天体をさらに高い解像度で観測し、生命発生にかかわる化学反応にタイタンが適しているのかどうかも明らかにしたいと思っています」(Palmerさん)。