星の誕生が別の星の誕生を引き起こす
【2017年6月27日 NRAO】
オリオン座の方向約1400光年の距離にある巨大なガス雲では、数多くの星が形成されている。
スペイン・アンダルシア宇宙物理学研究所のMayra Osorioさんたちが米・カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)でこのガス雲を観測したところ、「HOPS (Herschel Orion Protostar Survey) 108」と呼ばれる原始星が、別の年長の原始星「HOPS 370」から噴き出す高速ジェット(アウトフロー)の進路に存在する様子がとらえられた。
HOPS 370(FIR 3、左上)とHOPS 108(FIR 4、下)の電波観測画像(提供:Osorio et al., NRAO/AUI/NSF.)
この現象については2008年に東京大学(当時の所属)の島尻芳人さんたちの研究で、原始星HOPS 370のアウトフローがガスの塊にぶつかり、その衝撃で塊が崩壊して原始星HOPS 108の誕生が引き起こされたことが示唆されていた。
今回の観測ではアウトフロー中に物質のこぶが複数見つかり、速度が測られた。その観測結果は、星から噴き出すアウトフローが別の星の形成を引き起こしたとするシナリオを支持する重要なものとなった。HOPS 370のジェットが約10万年前からガスの塊に衝突し始め、最終的にHOPS 108の形成へとつながるガス塊の崩壊が始まったと考えられている。「ジェットの向き、速度、そして距離、すべてがシナリオと合致します」(Osorioさん)。
シナリオに合致しない問題が一つだけある。若いほうの原始星HOPS 108の動きを調べると、この原始星がどこか別のところで作られた、つまりHOPS 370のアウトフローが形成の引き金になったわけではないようにも思えるのだ。「HOPS 108の動きは、自らのアウトフローによって作り出された(つまり星形成の起源の議論には関係ない)ものかもしれません。問題の解決を目指して、今後も長期にわたって観測を続けたいと思っています」(Osorioさん)。
〈参照〉
- NRAO:Star's Birth May Have Triggered Another Star Birth, Astronomers Say
- The Astrophysical Journal:Star Formation Under the Outflow: The Discovery of a Non-Thermal Jet from OMC-2 FIR 3 and its Relationship to the Deeply Embedded FIR 4 Protostar 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2021/03/02 重い赤ちゃん星の周りで作られる炭素の鎖
- 2021/02/16 アルマ望遠鏡、赤ちゃん星から吹く風をとらえる
- 2020/10/02 「塩」で解き明かす、大質量星形成のメカニズム
- 2020/08/13 卵からかえったばかりの「星のヒナ」を発見
- 2020/08/05 大質量原始星の周辺は複雑な環境
- 2020/05/29 矮小銀河の衝突が天の川の星形成を促し、太陽も誕生させた可能性
- 2020/03/30 野辺山45m電波望遠鏡の電波地図から見えた星形成の現場
- 2020/03/18 天の川銀河外縁部の分子雲衝突候補天体の距離を精密測定
- 2020/02/28 オリオン座に潜む赤ちゃん星たちのポートレート
- 2020/01/30 彗星と星形成領域にリンを含む分子を検出
- 2020/01/30 重い原始星が吐き出す「熱の波」
- 2019/11/26 天の川銀河最大級の星のゆりかごで見つかった多数の分子雲コア
- 2019/11/19 大質量星の形成現場、大マゼラン雲の「2羽の孔雀」
- 2019/10/25 プレッツェルのような双子星の「へその緒」
- 2019/09/11 双子原始星からの不揃いな分子流を検出、連星系形成の謎に迫る
- 2019/07/31 星の生産工場はとても希少
- 2019/07/16 大質量原始星を取り巻くガス円盤の姿
- 2019/06/10 銀河の星形成は「見かけ」によらない
- 2019/05/08 巨大原始星の周りに一酸化アルミニウムを発見
- 2019/03/14 大質量星が誕生する領域の化学組成とその進化