X線の激しい閃光で発見された新種の謎の天体爆発

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X線観測衛星「チャンドラ」がX線の激しい閃光を生じる謎の天体爆発を発見した。わずか数分で母銀河に存在するすべての星の数千倍ものエネルギーが放出されており、新しい天体現象である可能性が指摘されている。

【2017年4月3日 カブリIPMUChandra X-ray Observatory

2014年10月1日、NASAのX線観測衛星「チャンドラ」が、ろ座の方向にある「Chandra Deep Field-South(CDF-S)」と呼ばれる領域内に謎のX線放射を観測した。このX線源は、ほんの数時間で少なくとも1000倍も明るくなり、約1日でチャンドラの感度以下まで暗くなった。

ハッブル宇宙望遠鏡と赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」の過去の観測データを調べたところ、この現象が地球から107億光年離れた淡く小さい銀河で起こっていたことが明らかになった。観測された明るさと距離からすると、同X線源は数分ほどでこの銀河内にあるすべての星の数千倍ものエネルギーを放出したことになる。

CDF-SのX線源
CDF-SのX線源。下段は変光の様子(提供: NASA/CXC/Pontifical Catholic University/F. Bauer et al.)

この現象の正体は不明だ。候補としてはたとえば、大質量星の重力崩壊や、中性子星同士や中性子星とブラックホールとの合体により引き起こされる爆発現象「ガンマ線バースト現象(GRB)」である可能性が考えられる。GRBのジェットが広がってエネルギーを失い弱くなると、X線などが等方的に放射されるようになり今回のような閃光として見えるというものだ。あるいは、GRBのジェットが地球方向に向いていなかったり小銀河の向こう側で起こったりしたという可能性もある。

さらに別の可能性として、中間質量ブラックホールが、そこに接近してきた白色矮星を潮汐力によって破壊した際に生じたものだという説もある。

しかし、これらの説はどれも観測データと完璧には合っておらず、チャンドラがCDF-S以外の他の領域で行った観測で似た現象が発見されたこともない。別の楕円銀河で原因不明の変光X線源が見つかったことはあるものの、継続時間や明るさ、母銀河の大きさなどの特徴が異なっている。

「まったく新しいタイプの激しい変動事象を観測したのかもしれません。それが何であれ、どういった原因で生じたのかを解き明かすために、より多くの観測が必要です」(スイス・チューリッヒ工科大学 Kevin Schawinskiさん)。

もしX線閃光が中性子星とブラックホールとの合体や、中性子星同士の合体により引き起こされたGRBで生じていたとすれば、重力波も発生していたはずだ。「近い将来、レーザー干渉計重力波天文台『LIGO』でより多くの重力波事象が検出できると期待しています。それに伴ったX線放射が検出できれば、中性子星などコンパクト星合体の物理をかなりはっきりさせることができるでしょう」(カブリIPMU Alexey Tolstovさん)。

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