ガンマ線バーストのスペクトルと明るさの相関関係の起源

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ガンマ線バーストが起こる際に「光球面放射モデル」と呼ばれるメカニズムでガンマ線が放射されることを強く示唆する結果がシミュレーション研究で得られた。ガンマ線バーストの放射機構の解明に貢献する成果だ。

【2019年4月9日 理化学研究所国立天文台天文シミュレーションプロジェクト

宇宙で最も明るい天体現象である「ガンマ線バースト」では、突発的に大量のガンマ線が放射される。ガンマ線バーストの一部は、質量が太陽の約10倍以上の大質量星が一生の終わりに爆発する際に放出される相対論的ジェットによって発生することがわかってきたが、そのジェットからガンマ線が放射されるメカニズムは未解明である。

放射メカニズムを説明するモデルの一つとして「光球面放射モデル」というものがある。このモデルによると、ジェットの内部に閉じ込められていた大量のガンマ線がジェットの膨張につれて外に解放されることで、ガンマ線バーストとして観測されると考えられている。従来の理論モデルでは説明が難しかった特徴を説明できる有望なモデルだ。

光球面放射のイメージ図
ガンマ線バーストのジェットで起こる光球面放射のイメージ図。大質量星が一生の最期に大爆発を起こす瞬間、星の表面を突き抜けて超高速のジェットが放出され、その内部に捕らわれていたガンマ線(白い粒子)が外に抜け出してガンマ線放射が起こる。拡大図中の青い粒子は陽子を、黄色い粒子は電子を表す(提供:国立天文台)

このモデルの妥当性を確かめるには、大質量星の外層と衝突しながら伝搬するジェットからどれだけのガンマ線が放出されるかを見積もる必要がある。理化学研究所の伊藤裕貴さんたちの研究グループは、国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイII」などを用いて、相対性理論を組み込んだ大規模3次元流体シミュレーションと光の伝搬のシミュレーションを行い、太陽の16倍の質量を持つ大質量星の中心領域から噴出した超高速ジェットで起こる光球面放射の様子を調べた。

大質量星を突き破るジェットの流体シミュレーションの結果
大質量星を突き破るジェットの流体シミュレーションの結果。光速の99.99%の速度を持つ超高速ジェットが星の外層(紫・オレンジ色の部分)と衝突することにより非一様な構造が形成される。ジェットの中心軸付近はエネルギーが大きく速度が速くなり、中心軸から離れるほどエネルギーが小さく速度も遅くなる傾向を示す(提供:Ito et al. (2019) Nature Communicationsを改変、以下同)

シミュレーションで再現されたプロセスは次のようなものだ。

まず星の内部でジェットが発生し、星の外層と衝突しながら外に向かって突き進む。ジェットが星の表面を突き破って星の外へ出ると、ジェットの内部に閉じ込められていたガンマ線が放出される。この際、星の外層と衝突したことがジェットの運動に影響し、中心軸から離れた位置ほどジェットのエネルギーや速度が小さくなるという構造を形成する。その構造を反映して、観測者の視線方向が中心軸から離れるほど、観測されるスペクトルのピークエネルギーと最大光度が共に小さくなるという相関が生じる。この関係はジェットのパワーや継続時間にはよらない。

このピークエネルギーと最大光度の相関関係は、観測的には「米徳関係」という経験則として知られている。今回の光球面放射のシミュレーション研究は、この米徳関係が自然に再現されることを明らかにしたものであり、光球面放射がガンマ線バーストの主な放射メカニズムであることを強く示すものだ。長年の謎であったガンマ線バーストの全容を解明するための重要な一歩となる成果で、大質量星の爆発メカニズムの理解へと導くものとなるだろう。

観測から得られた米徳関係と数値シミュレーションの比較
観測から得られた米徳関係と数値シミュレーションの比較。スペクトルのピークエネルギーが大きくなるほど最大光度が大きくなるという傾向(米徳関係)が、シミュレーションで再現されている。シミュレーション点の違いはジェットのパワーや継続時間の違い