中間赤外線で明るく輝く土星の「カッシーニの間隙」

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すばる望遠鏡が撮影した土星の画像を使った研究で、可視光線では常に暗い「カッシーニの間隙」や「C環」が中間赤外線では明るく見えることがあり、見え方に季節変化があることがわかった。

【2017年2月27日 すばる望遠鏡

土星の環は直径数cmから数mほどの氷の粒が無数に集まってできているものだ。環の主要部は、内側から順に「C環」「B環」「A環」と呼ばれる「濃さ(明るさ)」の異なる部分でできており、一番明るいB環とその外側のA環の間には「カッシーニの間隙」と呼ばれる隙間(暗い部分)が存在する。

国立天文台ハワイ観測所の藤原英明さんは、すばる望遠鏡の広報活動の一環として魅力的な土星の画像を作成する目的で、すばる望遠鏡の冷却中間赤外線分光撮像装置「COMICS」によって撮影されたデータを解析していた。その際に藤原さんは、環の輝き方が、普段見慣れた可視光線での像と中間赤外線での像とではまったく異なることに気づいた。

中間赤外線における土星の3色合成画像
2008年1月に「COMICS」で観測された土星の3色合成画像。「カッシーニの間隙」(環の外寄りに見える黄緑色の細い部分)や「C環」(環の一番内側に見える黄緑色の幅広い部分)が明るい(提供:国立天文台、以下同)

中間赤外線像ではカッシーニの間隙とC環が明るく、B環とA環は暗いが、可視光線では反対に、常にB環とA環が明るく、カッシーニの間隙とC環はとても暗く見えるのだ。

中間赤外線像(左)と可視光線像(右)の比較
2008年の土星の環の見え方を、中間赤外線(左)と可視光線(右)とで比較したもの。可視光線画像は国立天文台石垣島天文台の「むりかぶし望遠鏡」で2008年3月に撮影

中間赤外線で観測されるのは環を構成する粒子が発する熱放射である。画像から各環の温度を測定したところ、カッシーニの間隙とC環が、B環とA環に比べて高温であることがわかった。カッシーニの間隙とC環は粒子の密集度が低いため、太陽光がよく差し込む。また、これらの部分を構成する粒子は黒っぽいことも知られている。こうした理由から、カッシーニの間隙とC環はB環とA環よりも温まりやすいので、粒子の密集度が低いにもかかわらず中間赤外線で明るく見えたのだろう。

一方、可視光線で見えるのは、環の粒子で反射された太陽光である。B環とA環は粒子が多いので可視光線では常に明るく見え、反対にカッシーニの間隙とC環は常に暗く見えるというわけだ。

ただし、カッシーニの間隙とC環が中間赤外線で常に明るいというわけではない。2005年4月に撮影された中間赤外線データを確認したところ、この時にはカッシーニの間隙とC環はB環とA環よりも暗く観測されていた。

中間赤外線での土星の環の、2005年と2008年の比較
中間赤外線での土星の環の見え方を、2005年4月30日と2008年1月23日とで比較したもの。環の場所による明るさが2005年から2008年の間に逆転している

研究チームは、この「逆転現象」は太陽や地球に対する環の開き具合が変化することによって引き起こされると考えている。土星は地球と同様、約27度傾いた状態で公転している。そのため、太陽に対する環の開き具合は公転周期の半分である約15年周期で大きく変化し、それに伴う季節変化によって太陽光の差し込み方が変わることで粒子の温度が変わる。また、地球から環を見通した時の粒子の密集度も、環の開き具合に応じて変わる。環の粒子の温度や見かけの密集度が変わることで、中間赤外線での環の輝き方が変化し、結果として明るさが逆転することもあるというわけだ。

「すばる望遠鏡の広報活動がそのまま科学成果につながり、嬉しく思います。今年5月には別の手段で土星の観測を行う予定です。探査機と地上望遠鏡のそれぞれの特長を活かしてデータを蓄積し、環の性質をさらに詳しく調べていきます」(藤原さん)。