不可思議な量子効果「真空複屈折」を示唆する初の観測成果

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強力な磁場を持つ超高密度天体である中性子星の観測から、80年前に予測された量子効果「真空複屈折」の証拠となる現象が初めて観測的に示されたとする研究成果が発表された。

【2016年12月1日 RAS

中性子星とは、太陽の10倍程度以上の質量を持つ星が一生の終わりに超新星爆発を起こした後に残る高密度天体だ。その磁場は太陽の数十億倍と強力で、中性子星周辺の宇宙空間にも影響が及ぶが、宇宙空間は通常真空なので、中性子星から放たれた光は変化を起こさずにそのまま進むと考えられる。

しかし、量子電磁力学(quantum electrodynamics; QED)、つまり光子と電子などとの相互作用を記述する量子論によれば、空間は絶えず消滅したり出現したりする仮想粒子でいっぱいだとされている。そして、とても強力な磁場はこの空間に変化をもたらし、そこを通過する光の偏光にも影響を及ぼす。「QEDによると、強力な磁気を帯びている真空は『真空複屈折』として知られる、光の伝搬に対するプリズムのような役割を果たします」(伊・国立宇宙物理研究所 Roberto Mignaniさん)。

Mignaniさんたちの研究チームはヨーロッパ南天天文台の大型望遠鏡「VLT」を使って、みなみのかんむり座の方向400光年彼方に位置する中性子星「RX J1856.5-3754」を観測した。そのデータから、約16%におよぶ直線偏光が検出された。「この直線偏光は、QEDが予測する真空複屈折による効果を考慮に入れなければ、簡単に説明できるものではありません」(Mignaniさん)。

中性子星の表面から放射される光が直線偏光するようす
中性子星からの光が真空空間を移動する間に直線偏光して地球に届く様子を示したイラスト(提供:ESO/L. Calçada)

QEDによる多くの予測のうち、真空複屈折は80年前に予測されて以降、これまで直接の検出例はなかった。「真空複屈折は、たとえば中性子星の周囲など非常に強力な磁場のもとでなければ検出されません。中性子星は、いわば自然の基本法則を調べるための貴重な実験室なのです」(伊・パドゥーワ大学 Roberto Turollaさん)。

「今回の研究は、極度に強力な磁場のもとで起こるQED効果の予測を支持する、初めて成果となりました」(英・ムラード宇宙科学研究所/ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン Silvia Zaneさん)。

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