電波で観測しても暗い、太陽の黒点
【2015年5月15日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所】
太陽表面の黒点には地球の1万倍も強い磁場が存在しており、その磁気圧の影響で太陽表面の対流層が妨げられて温度が低くなっている。暗く見えるのはそのためだ。これは当然のように思えるかもしれないが、当然なのは可視光線で見える光球だけのことだ。
太陽を電波の一種であるミリ波で観測すると、彩層と呼ばれる光球面より上空の大気が見える。彩層における磁場の広がりや、その影響を受ける大気の温度、密度構造はよくわかっていないが、明るさが大気の構造に左右されるミリ波で観測すれば、大気状態を推測する重要な指標になる。だが、ミリ波で黒点を空間的に分解できるような高感度の大型電波望遠鏡は太陽の強い電波を観測するには向いておらず、これまで電波望遠鏡による太陽観測例が少なかった。
そこで国立天文台を中心とする共同研究グループは、電波の特性を変えずに強度だけを減衰させる特殊な装置を独自開発し、これを野辺山45m電波望遠鏡(長野県)に取り付けることでミリ波での太陽黒点観測を試みた。
黒点はプラージュと呼ばれる明るい領域に囲まれており、電波でもプラージュに対応する領域は明るく見える。一方、今回の観測によって、黒点中心は明るいプラージュ領域よりは暗く、周辺の静穏領域と同程度の明るさであることがわかった。太陽黒点の中心は、ミリ波でも暗い領域ということだ。
これまでに提案された数々の太陽黒点モデルでは、黒点領域はミリ波では明るいと予測されてきた。しかし今回の成果は正反対であり、ミリ波が放射される彩層のモデルが間違っている可能性を示唆している。従来の彩層モデルは紫外線や可視光線の観測データに基づき構築されてきたが、彩層の大気の状態は不安定なため高度な観測と理論が必要であった。電波は彩層大気の状態の影響を受けにくい性質があるので、観測さえできれば彩層大気の状態をより安定的に導出することができる。今回の成果は、太陽の彩層大気を診断する新しい手法をもたらしたという点でも注目すべきものだ。
〈参照〉
- 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所: 太陽の黒点、電波でも黒かった
- The Astrophysical Journal: Observation of Chromospheric Sunspot at Millimeter Range with the Nobeyama 45 m Telescope 論文
〈関連リンク〉
- 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所: http://www.nro.nao.ac.jp/
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