XENONnT実験で低エネルギー太陽ニュートリノによる電子散乱事象を初観測

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ダークマターの直接検出を目指して稼働中の「XENONnT実験」で、これまでに直接観測された中で最も低エネルギーの太陽ニュートリノと電子との散乱事象が世界で初めて検出された。

【2026年9月8日 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設

伊・グラン・サッソ国立研究所の地下で行われている「XENONnT(ゼノンエヌトン)実験」では、未発見の粒子と考えられているダークマター(暗黒物質)の直接検出を目指して観測を行っている。XENONnTでは5.9tの超高純度液体キセノンを封入した二相(液体・気体)式液体キセノン検出器(TPC;Time Projection Chamber)を用いて、粒子が液体キセノンと相互作用した際に発生する微弱な光や、電離によって生じた電子からの信号をとらえている。

XENONnT実験の外観
XENONnT実験の外観。(左)液体キセノンが入った検出器(TPC)を囲む水タンク。内部にある検出器のイラストが表面に貼られている。(右)管理棟(提供:Johannes Gutenberg-Universität Mainz, Alexander Deisting

このXENONnT実験で、太陽で生成された低エネルギーのニュートリノによる電子の散乱事象が世界で初めて観測されたことが、先月末に開催されたセミナーの場で米国・欧州・日本を中心とした国際共同研究グループ「XENONコラボレーション」から発表された。

太陽で生成されたニュートリノがXENONnT検出器内で電子と散乱する様子の概念図
太陽で生成されたニュートリノがXENONnT検出器内で電子と散乱する様子の概念図。太陽内部では様々な核融合反応がニュートリノを生成するが、なかでもppニュートリノ(2つの陽子が核融合し重水素と陽電子が生成される際に放出される電子ニュートリノ)は太陽の主たるエネルギー生成反応で生じるため、放出量が最も多い。太陽中心部から地球へ伝播したppニュートリノの一部はXENONnT検出器内部の電子を反跳させ、この事象が検出される(提供:XENONコラボレーション)

太陽の核融合によって生成されたニュートリノは、太陽から放出される粒子の中でも数の多いものの一つで、1cm2あたり毎秒数百億個以上が地球に到達している。しかしそのほとんどは地球上の物質とほぼ相互作用することなく通り抜けてしまうため、ニュートリノの検出には多くの実験的な工夫が必要とされる。

とくに、低エネルギー領域でこうした微弱なニュートリノ信号を、偶然ではないと判断できる水準で検出するには、ニュートリノ以外のノイズを極限まで低く抑える必要があった。そこでXENONコラボレーションでは検出器材料の選別や不純物質の除去システムの開発、高度なデータ解析戦略などの対策を講じ、低エネルギー太陽ニュートリノによって生成される微弱な信号の検出を可能にした。岐阜県で行われていたダークマターなどの探索実験「XMASS」の理念を受け継いだ研究者たちも今回の初観測に貢献している。

光電子増倍管
中性子によるバックグラウンド事象を検出・排除する、VETO検出器の浜松ホトニクス製光電子増倍管。液体キセノン検出器の周囲に120本搭載されている(提供:XENON Collaboration

今回の観測により、直接観測可能なニュートリノのエネルギー領域の下限は約17 keVまで引き下げられた。これは、これまでに直接観測されたニュートリノとして最も低いエネルギーに相当する。XENONnTは2024年に高エネルギー太陽ニュートリノと原子核の散乱を観測しており、今回の成果はXENONnTが対象とする科学研究の幅がさらに広がったことを意味している。XENONnT本来の目的であるダークマター探索を進めながら、同じ検出器を用いて性質の異なるニュートリノ反応を観測できることを実証するものだ。XENONnTはニュートリノ物理学においても重要な役割を担いつつあると言える。

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