ニュートリノを生成、110億年前の星形成銀河「シャドウ・ブラスター」
【2026年6月24日 アルマ望遠鏡】
宇宙から飛来する高エネルギーニュートリノの起源は、いくつかの活動銀河が放射源として特定されている。しかし、宇宙全体から届くニュートリノの総量を説明するには天体数がまったく足りず、主要な供給源がどこかに隠されていると考えられてきた。
約100億年前の宇宙の銀河は激しく星を生み出していて、ニュートリノの材料となる宇宙線が大量に生成されていた。そこで、この時代の銀河が宇宙全体から届くニュートリノの主な起源である可能性が高いと予測されてきた。しかし、遠方にあり、かつ分厚い塵に隠されている銀河と、個別のニュートリノ事象とを結びつける観測的な証拠を得ることは非常に難しく、確証は得られていなかった。
台・MITOS Science CO., LTD./台・国立中央大学の浦田裕次さんたちの研究チームは、南極点のニュートリノ検出器「IceCube」がとらえた信号「IC 210922A」の到来方向を追跡観測し、エリダヌス座の方向に、対応するサブミリ波天体「JCMT0402-0424」(以降JCMT0402)を発見した。この天体をアルマ望遠鏡で観測したところ、弧状にゆがめられて複数に分かれた像がとらえられた。これはJCMT0402と私たちとの間にある楕円銀河による重力レンズ効果を受けたものであり、JCMT0402の正体は約110億年前の宇宙に存在するきわめて明るい銀河であることが判明した。

(上)重力レンズ効果のインフォグラフィック。手前(Foreground)の銀河の重力がレンズの役割を果たし、より遠い(Background)銀河の像を拡大して歪めている。(下左)重力レンズ効果を受けた「シャドウ・ブラスター」の周囲領域。(下中)クローズアップ。赤い部分がレンズ源の楕円銀河、弧状部分がシャドウ・ブラスター。(下右)シャドウ・ブラスター
(提供:(上)International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/R. Proctor、(下)International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), D. de Martin & M. Zamani (NSF NOIRLab), Yuji Urata (MITOS Science Co., LTD.))
このようなきわめて明るい銀河のエネルギー源としては、銀河中心ブラックホールの活動や、潮汐破壊現象のような高エネルギー突発現象が考えられる。しかしJCMT0402では、ブラックホール活動や高エネルギー突発現象に特徴的な強いX線やガンマ線放射は見られず、純粋に「猛烈な星形成活動」によってガスが温められている可能性が高い。深い塵に埋もれて可視光線でもほとんど見えないことから、研究チームはJCMT0402を「シャドウ・ブラスター(Shadow Blaster)」との愛称で呼んでいる。
浦田さんたちはさらに、すばる望遠鏡などによる観測データに基づいて、手前の銀河が及ぼす重力レンズ効果の影響をモデル化し、これを用いてシャドウ・ブラスターの内部構造を詳しく調べた。すると、銀河の中心部のわずか約1500光年という狭い領域に、太陽の数千億倍もの膨大な質量のガスと塵が押し込まれた「コンパクトコア」が存在することがわかった。こうした極限的な高密度環境は、粒子がガスとの衝突を繰り返して効率的にニュートリノを生成する「天然の粒子加速器」として機能することが理論的に示されている。今回、そのような環境が110億年前の星形成銀河にあることが明らかになったわけだ。
今回の研究は、多波長にわたる観測によってニュートリノ源の天体を特定し、その起源に迫ることで、初期宇宙の星形成銀河の集団がニュートリノ生成に重要な役割を担っている可能性を観測から示した重要な成果となった。シャドウ・ブラスターのように圧倒的な密度で星形成活動を行う銀河は、宇宙の至る所に存在しているのかもしれない。浦田さんたちの分析では、全体のニュートリノのうちこうした銀河が担う割合は最大約20%ほどであるという。
シャドウ・ブラスターにズームする動画「Zooming into “Shadow Blaster” galaxy」(提供:International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), D. de Martin & M. Zamani (NSF NOIRLab), N. Bartmann)
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:天文学新時代へ! 宇宙論的距離におけるマルチメッセンジャー天文学の新たな展開 ―重力レンズ効果が解き明かした、約110億年前の爆発的な星形成活動とニュートリノのつながり―
- NoirLab:Tracing a Neutrino Ghost to Distant “Shadow Blaster” Galaxy
- Nature Astronomy:Compact dusty starbursts at cosmic noon linked to high-energy neutrinos 論文
〈関連リンク〉
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