死にゆく「炭素星」の化学組成
【2026年6月16日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所】
太陽のような恒星は一生の終わりに、大きく膨らんだ「漸近巨星分枝(AGB)星]」へと進化する。AGB星は星の内部で合成された炭素などの元素を猛烈な勢いで宇宙空間へと放出し、その物質は次世代の恒星や惑星、さらには生命の材料となる。AGB星はいわば宇宙における「元素のリサイクル工場」のようなものだ。
そのAGB段階の手前の状態にある、大気中の炭素量が酸素より多い星は炭素星と呼ばれ、AGB星と同様に星間空間へ炭素や重元素を供給して宇宙の化学進化に重要な役割を果たす。しかし、炭素星の詳細な化学組成の調査は、ミリ波・赤外線域において全天で最も明るい炭素星「IRC+10216(しし座CW)」でしか行われておらず、その結果が他の炭素星にも共通するかどうかはわかっていなかった。

ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた「IRC+10216(しし座CW)」。星を包み込むように存在する、炭素から成る塵の雲が見えている(提供:ESA/Hubble, NASA, Toshiya Ueta (University of Denver), Hyosun Kim (KASI))
ベトナム宇宙量子通信・天文学研究所(IAS)のQuang Nguyen Luongさんたちの研究チームは、野辺山45m電波望遠鏡の高感度新受信機「eQ」を用いて、2番目に明るい炭素星「CIT 6(こじし座RW)」を観測した。その結果をIRC+10216の観測データと比較し、炭素星の進化に関する様々な成果を得た。
主な成果:
- 「物理的進化に伴う化学組成の変化」
CIT 6の分子存在量はIRC+10216よりも全体的に10分の1ほどと低く、CIT 6がより進んだ進化段階にあることが示された。進化が進むと放出されたガスが周囲へ広がって密度が下がるため、遮られることなく届く星からの紫外線が広範囲の分子を壊してしまい、結果として分子存在量が低く抑えられると考えられる。 - 「ケイ素・硫黄分子の欠乏」「炭素鎖分子の維持」
一硫化ケイ素や一硫化炭素といった、ケイ素や硫黄を含む分子が著しく減少していた。これらの分子が塵に取り込まれたり、星の周囲の衝撃波によって破壊されたりしている可能性を示している。
一方で、シアノペンタアセチレンやシアノヘキサトリインといった長い炭素鎖分子は比較的豊富に残っていて、進化した環境でも炭素鎖化学が効率的に働いていることが確認された 。 - 「星の内部情報の抽出」
炭素同位体比(12C/13C)が低く、ケイ素同位体比(28Si/29Si)も太陽系よりわずかに低いことが判明した。これらは星の内部で起こっている核融合プロセスの特徴を反映していて、星の進化の歴史を知る手がかりとなる。
たとえば、核融合で生成された元素では13Cの比率が高く、CIT 6でも内部から汲み上げられたガスが多いことが確認でき、炭素星の進化の特長をよく表している。ケイ素の同位体比は、星が誕生した場所(天の川銀河内の位置)や、その星の親となった世代の星々による銀河化学進化の歴史を反映しているかもしれない。

CIT 6の想像図。星から噴き出たガス内で複雑な分子が形成される様子を表している。画像クリックで表示拡大(提供:国立天文台 野辺山宇宙電波観測所リリース)
今回の研究で、異なる進化段階にある2つの炭素星が類似した分子存在量比を示すことが明らかになった。これによって、炭素星における分子形成プロセスに共通性があり、かつ中心星からの紫外線がその形成過程に決定的な役割を果たしていることが確認された。
研究チームは今後、進化段階の異なる多くの炭素星を調査して、化学的特徴が普遍的かどうかを明らかにし、炭素星を通じた宇宙の元素供給プロセスの解明を目指す。
〈参照〉
- 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所:死にゆく星の化学組成を解明:野辺山45メートル電波望遠鏡の新受信機eQによる炭素星CIT 6の広帯域スペクトルサーベイ
- Astronomy & Astrophysics:A spectral-line survey of CIT 6 between 30 and 50 GHz with the eQ receiver at NRO 45 m 論文
〈関連リンク〉
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