すばる望遠鏡、暗い低温度星の化学組成を明らかに

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すばる望遠鏡の近赤外線高分散分光器IRDによって、太陽よりも小型で低温のM型矮星13個について、従来観測が困難だった化学組成が明らかになった。

【2022年4月5日 すばる望遠鏡

宇宙や天の川銀河に最も多く存在する恒星は、太陽より軽く低温で暗い「M型矮星」と呼ばれるタイプだ。数が多いM型矮星の周りを調べれば惑星も数多く見つかると期待される。M型矮星は可視光線では暗いが近赤外線では明るいため、すばる望遠鏡に新たに搭載された近赤外線高分散分光器「IRD」がM型矮星を巡る地球型惑星の探索を目指して始動している(参照:「第二の地球探しの新観測装置「IRD」がファーストライト」)。

アストロバイオロジーセンターの石川裕之さんたちの研究チームは、IRDで惑星を見つけるために観測したデータを利用して、M型矮星13個の化学組成を詳細に明らかにした。これは今後M型惑星の周りで見つかる惑星を知る上で欠かせない情報である。恒星に含まれる元素は、周囲の惑星を形作る材料にも反映されるはずだからだ。また、中心星に重い元素があるほど、周囲に巨大惑星が存在する傾向がある。

M型矮星の組成の測定は、可視光線で分光観測が行われてきた太陽型星(F、G、K型星)に比べて、可視光線で見ると非常に暗いことや、温度が低いために分光データが複雑であることが理由で、これまで困難だったが、石川さんたちはIRDがとらえた近赤外線スペクトルを利用した独自の測定方法を開発した。13個のM型矮星はその初期サンプルで、それぞれの星に含まれる、水素に対する各種金属(ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、ストロンチウム)の存在量の比を、時期を変えつつ複数回取得し、高品質な測定結果を得た。

M型矮星の想像図とナトリウムと鉄のスペクトル
M型矮星の想像図と、観測されたナトリウム、鉄のスペクトル(提供:アストロバイオロジーセンター、以下同)

この研究から、13個のM型矮星は、太陽に近いタイプであるF、G、K型星と似た化学組成を持つことがわかった。また、位置天文衛星「ガイア」のデータを利用してこれらの星の動きを調べたところ、特に金属量が少ないM型矮星ほど太陽と異なる運動をしている傾向が示唆された。この傾向はF、G、K型星でも知られているもので、天の川銀河の化学進化を反映していると考えられている。

観測されたM型矮星の中には固有運動が大きいことで有名なバーナード星も含まれている。これまでに複数の証拠から、バーナード星は天の川銀河内でも比較的古いタイプの恒星であることが示されているが、今回の結果はそれと矛盾しないものだ。

水素に対する鉄の存在量比と鉄に対するマグネシウムの存在量比/星の運動
(左)水素に対する鉄の存在量比(金属量)と、鉄に対するマグネシウムの存在量比の関係(それぞれ、太陽での存在量比に対する相対値)。多くが太陽と似た値をもつ一方、金属量の低い星も存在していることがわかる。(右)天の川銀河内の星の運動を表した図。太陽と同じように銀河円盤に沿った回転運動をしている星が多いものの、そこから外れた運動をしている星もある。(赤星)今回調べられた13個のM型矮星。(赤三角)同研究チームによる先行研究で扱ったM型矮星(Ishikawa et al. 2020)。(黒い点)比較のため、F、G、K 型星約1000個の文献値(Adibekyan et al. 2012)を示したもの。(白抜きの星)バーナード星は金属量が少なく太陽とは異なる運動をしているが、F、G、K型星と同じような傾向がある。画像クリックで表示拡大

IRDでは約100個のM型矮星で惑星探しが行われているが、それらの化学組成も近いうちに測定可能であることが示された。M型恒星は太陽系の近くにも数多く存在するので、化学組成を通じてそれらがどのような星なのかが明らかにされそうだ。また、IRDが惑星を発見した際には、惑星材料である中心星の化学組成をもとに、惑星の特徴に関するヒントが得られると期待される。

さらに、M型矮星は至るところに存在する上に、寿命が数兆年と現在の宇宙年齢よりも長いことから、その組成を調べることは天の川銀河における元素の変化の歴史を知るための手がかりにもなるだろう。

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