年老いた赤い星を取り巻く巨大なガスの泡

このエントリーをはてなブックマークに追加
赤く輝く年老いた星「ポンプ座U星」の周りに広がる、2700年前に噴出したガスが作る巨大な泡構造がアルマ望遠鏡によってとらえられた。泡の半径は太陽から地球までの距離の1万倍にも達している。

【2017年9月28日 アルマ望遠鏡ヨーロッパ南天天文台

南天にある目立たない星座ポンプ座で、9~10等級でひっそりと赤く輝いているのが「ポンプ座U星」だ。地球から約850光年の距離にあり、「炭素星」に分類される比較的低温の明るいこの星は、一生の最期にさしかかっている(漸近巨星分枝星)。

一般に年老いた星はガスを噴き出すことが知られており、ポンプ座U星の周りにも星から放出されたガスが泡状構造となっている。そのガスの泡をアルマ望遠鏡が高解像度で鮮明にとらえた画像が公開された。ポンプ座U星の周りの様子が美しく描き出だされている。

「ポンプ座U星」と周囲のガス
「ポンプ座U星」(中央)と周囲のガス(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/F. Kerschbaum、以下同)

画像の詳しい解析から、星を取り巻く泡のような構造は約2700年前に星から噴出したガスであることがわかった。泡の半径は太陽から地球までの距離の約1万倍にも及ぶ。もし太陽が同規模のガスの泡に取り囲まれているとすれば、太陽系の果てに相当する領域にまでガスが広がっていることになる。

観測では画像だけでなく、ガスの速度や広がりのデータも取得された。ガスは星から四方八方に飛び出しており、ある部分は私たちに近づく方向に、別の部分は私たちから遠ざかる方向に動いている。こうしたガスの動きがドップラー効果を起こし、電波の周波数がわずかにずれるので、周波数の差からガスの噴出速度がわかる。星からのガスの放出が球対称であると仮定すれば、ガスの動きから空間的な広がりも推定することができる。ちょうど、CTスキャンで体の断面図を見るようなものだ。

ポンプ座U星の周囲のガスの動き
ポンプ座U星を取り巻くガスの動きを色で示した画像。(青)星から地球の方向に動いているガス。(赤)星から広がっているが、地球の方向へは動いていないガス

ポンプ座U星のような年老いた星の周りのガスの化学組成や、ガスが噴き出して泡構造を作る様子を調べることで、個々の星がどのように一生を終え、噴き出したガスによって銀河全体がどのような化学的進化をしていくのかを理解する手がかりが得られる。