XRISMが観測した太陽系外からの来訪者

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JAXAのX線天文衛星「XRISM」が史上3例目の恒星間天体「3I/アトラス彗星」を観測し、40万kmにわたって淡く広がるX線をとらえた。彗星を取り巻くガス雲の輝きかもしれない。

【2025年12月15日 JAXA XRISM

今年7月1日に発見された「アトラス彗星(3I/ATLAS)」は太陽系の外から飛来した恒星間天体で、観測史上3例目というきわめて珍しい天体だ。この天体の詳しい性質を探るため、世界中の天文台や観測衛星、さらには火星探査機までも利用して、様々な波長でアトラス彗星が観測されている。

JAXAのX線天文衛星「XRISM」も11月下旬にアトラス彗星の臨時観測を実施した。彗星は太陽に最接近する近日点付近(アトラス彗星の場合は10月末)で最も明るくなるが、太陽に近すぎると観測装置を向けることができないため、太陽からある程度離れてすぐというタイミングでの観測となった。

アトラス彗星
XRISMに搭載された軟X線撮像装置「Xtend」がとらえたアトラス彗星。約300万km四方の広い領域を撮像しており、彗星の周囲約40万kmに広がる淡い放射の兆候(白の破線円内)が見られる(提供:JAXA、以下同)

観測データを詳細に解析したところ、彗星の周囲およそ40万kmに広がる、かすかなX線の輝きが浮かび上がった。太陽風に多く含まれる炭素や窒素、酸素といった原子に由来すると考えられるX線成分で、通常の背景放射(天の川銀河のX線放射や地球大気からの放射の重ね合わせ)では説明できないものだという。

アトラス彗星付近のX線スペクトルと背景放射モデル
アトラス彗星付近のX線スペクトルと背景放射モデル。赤矢印で示した箇所に、太陽風に多く含まれる炭素や窒素、酸素に起因する放射と考えられる超過成分が見られる

彗星の周囲には氷から生じたガスの雲が広がっていて、そこに太陽風が衝突すると特有のX線が放出される。太陽系内のいくつかの彗星ではX線放射が確認されてきたが、恒星間天体であるアトラス彗星でも同様のメカニズムが起こっている可能性を示唆する結果だ。ただし、検出器ノイズの影響などでも似た構造が現れうるため、彗星由来であることを確認するにはさらに慎重な解析が必要とされる。