日本のX線天文衛星「XRISM」がファーストライト

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JAXAのX線分光撮像衛星「XRISM」が初観測を行い、画像が公開された。広視野X線カメラによる画像と超高分解能の分光装置によるX線スペクトルが得られている。

【2024年1月11日 JAXA

2023年9月7日に小型月着陸実証機「SLIM」と相乗りでH-IIAロケットで打ち上げられた「XRISM」は、太陽電池パネルの展開や搭載機器の機能確認、姿勢制御モードへの移行などを行い、10月から軟X線分光器「Resolve」と軟X線カメラ「Xtend」のファーストライト観測を行った。

まず、10月14~24日にXtendを使って、はくちょう座の方向約7億7000万光年の距離にある銀河団「Abell 2319」が撮影された。この銀河団は2つの銀河団が衝突している天体で、Xtendでは両方の銀河団の高温プラズマを明瞭にとらえている。また、38×38分角(満月1個分よりやや広い面積)というXtendの広い視野を生かし、銀河団の周辺まで一度に撮像できている。

Abell 2319
カメラ「Xtend」で撮影したAbell 2319のX線画像(紫色)。DSSによる可視光線画像(カラー)と合成している。十字状・線状の黒い部分はX線CCDアレイのすき間でデータがない部分。各枠線は過去にJAXAの「あすか」「すざく」、NASAの「チャンドラ」がこの天体を撮影した視野とXtendの視野を比べたもの。画像クリックで表示拡大(提供:X線:JAXA、可視光:Digitized Sky Survey)

Xtendの視野の広さは、XRISMの前に活躍した日本のX線天文衛星「すざく」やNASAの「チャンドラX線天文台」のX線カメラの約4倍にもなる。観測対象と一緒に写った別の天体での予想外の発見につながったり、突発天体を同定したりするのに威力を発揮すると期待されている。

12月4~11日には、大マゼラン雲の超新星残骸「N132D」をResolveで観測し、X線スペクトルを得た。Resolveは装置を0.05Kまで冷却し、X線光子を受光した際の温度上昇を検出してX線のエネルギーを精密に求める「X線マイクロカロリメーター分光器」だ。約2keVより高エネルギーの領域で使えるX線分光器としては世界最高の分解能を持つ。

N132D
分光装置「Resolve」で得られたN132DのX線スペクトル。ケイ素・硫黄・アルゴン・カルシウム・鉄などの輝線が高い感度・分解能で検出されている。上段には「すざく」の撮像分光装置「XIS」で得られた同じ天体のスペクトルを示している。2keV付近の連続スペクトル成分が「すざく」のデータより低いのは装置の保護膜の吸収によるもの。背景の画像は「Xtend」で撮影されたN132Dの擬似カラー画像で、青い部分ほどX線のエネルギーが高い。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA)

X線マイクロカロリメーター分光器は日本の歴代のX線天文衛星である「ASTRO-E」(2000年)、「すざく (ASTRO-EII)」(2005~2015年)、「ひとみ (ASTRO-H)」(2016年)にも搭載されたが、いずれも打ち上げ失敗や軌道投入後のトラブルで十分な観測成果を挙げられていない。Resolveが定常観測にこぎ着ければ、JAXA宇宙科学研究所の24年越しの悲願達成となる。

今回の観測では、Resolveのエネルギー分解能が5eV以下を達成し、設計値(7eV)を上回る性能を実現していることが確認された。ケイ素・硫黄・アルゴン・カルシウム・鉄などの輝線の細かい構造がはっきりととらえられている。

なお、現時点では、ResolveのX線入射部にあるベリリウム製の保護膜(厚さ250μm)を開放する操作ができていない。この保護膜は打ち上げ時に衛星内で発生したガスが検出器に付着するのを防ぐものだ。保護膜が閉じた状態でも観測はできるものの、約1.8keVよりエネルギーの低いX線が吸収されてしまう難点がある(保護膜が開くと300eVまで観測可能になる)。今後、機体の姿勢を変えて開放機構部の温度を変えるなどして、保護膜を開けることを試みるという。

1月5日に行われた記者説明会で、「XRISM」プロジェクトマネージャの前島弘則さんは、「ファーストライトの画像データを見た科学者たちの議論が尽きない様子に、エンジニアとして「ああ良かったな」と思いました」と現在の思いを語った。また、「XRISM」チームPI(研究主宰者)の田代信さんは、Resolveで得られた分光データについて、「私自身も「すざく」にたずさわっていましたが、当時と同じ天体を見ているとは思えないほどの分解能で、何度見ても衝撃的です。こうした鋭いスペクトルが得られることで、同じ天体について従来の2倍、3倍、あるいは桁で違う情報量を得ることができ、科学者としてわくわくしています」と述べた。

さらに、NASAとともにXRISMプロジェクトに参加しているヨーロッパ宇宙機関(ESA)のFabio Favataさん(前ESA科学局プログラム室長)は、「今回のXRISMの成果は素晴らしいもので、X線天文学を研究するすべての研究者が待ち望んでいたものだと保証します。とくにN132Dは私自身も40年前に研究していた天体で、このデータの素晴らしさがよくわかります。XRISM以前と以後で、高エネルギー天文学を通して見る宇宙の姿は変わって見えるはずです」とXRISMへの期待を述べた。

XRISMは2月から定常運用を始め、最初の6か月は初期観測として約50個の天体を観測する。その後は全世界の研究者による公募観測の期間に移る。XRISMは装置の冷却に液体ヘリウムを使っており、定常運用はヘリウムが尽きるまでの約3年間を想定している。その後は機械式冷凍機を使って冷却する後期運用期間となる予定だ。

X線分光撮像衛青(XRISMM)の記者説明会(1月5日)の録画(提供:JAXA宇宙科学研究所)