115億年前の初期宇宙で形成中の原始銀河団

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ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測により、115億光年彼方のクエーサーのすぐ近くに少なくとも3つの銀河が存在することがわかった。形成中の原始銀河団の中心部とみられる。

【2022年10月27日 ヨーロッパ宇宙機関

ヘルクレス座の方向にある「SDSS J165202.64+172852.3」(以降SDSS J165202)は私たちから115億光年の距離を隔てた、ビッグバンから20億年程度の初期宇宙に存在するクエーサーだ。クエーサーは銀河の中心核が超大質量ブラックホールの活動により極めて明るく輝いている天体で、あらゆる波長の電磁波を発しているが、SDSS J165202は遠方にあるため、赤方偏移によって非常に「赤い」クエーサーとなっている。赤外線でも明るくなっているため、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で観測するのに向いている。

独・ハイデルベルグ大学のDominika Wylezalekさんたちの研究チームはJWSTの近赤外線分光器「NIRSpec」を使用して、SDSS J165202とその周辺を分光観測した。ドップラー効果によって私たちの方へ動いている物質からの光は波長が短く(青く)なり、遠ざかっている物質の光は波長が長く(赤く)なるので、分光観測によってSDSS J165202の母銀河周辺におけるガスの動きを調べることができる。

SDSS J165202と周辺のガスの動き
(左)ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したSDSS J165202周辺。(右)JWSTのNIRSpecが撮影したSDSS J165202近傍のガスの分布。赤は私たちから遠ざかる方向、青は私たちへ近づく方向に動く成分を示す。画像クリックで表示拡大(提供:NASA、ESA、CSA、STScI、D. Wylezalek (Heidelberg Univ.), A. Vayner and N. Zakamska (Johns Hopkins Univ.) and the Q-3D Team)

ガスの動きから、SDSS J165202の周りには母銀河に加えて、少なくとも3つの銀河が漂っていることがわかった。ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータからは、さらに多くの銀河が存在する可能性が示唆されている。銀河間の距離は近く、互いに重力で影響を及ぼし合っている。研究チームはこの結果を、銀河団が形成されつつある現場を観測したものと解釈している。

「この時代の原始銀河団はごくわずかしか知られていません。見つけるのが難しいですし、ビッグバン以降、形成するのに十分な時間を与えられたものは少ないのです。今回の発見は、高密度な環境で銀河がどのように成長するかを理解するための手がかりとなるでしょう。実にわくわくします」(Wylezalekさん)。

115億年前という初期宇宙で、SDSS J165202周辺のように数多くの銀河が生まれているのは極めて異例なことだ。大量の暗黒物質が重力によって物質をつなぎとめているのだと考えられるが、ただの暗黒物質の密集部ではこの状況を再現できないため、2つの巨大な暗黒物質の塊がここで衝突している可能性もあるという。

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