リュウグウ試料から水・有機物・窒素化合物のスペクトルを検出

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「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの第1段階の分析で、水や有機物、窒素化合物などの特徴が確認された。

【2021年12月28日 JAXA宇宙科学研究所 (1)(2)

昨年12月に「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料について、分析研究の第1段階となる、カタログへの「初期記載」作業で判明した科学的な知見が2編の論文として公表された。

リュウグウ試料はCIコンドライトに似ているが、より黒くてスカスカ

光学顕微鏡で試料の粒子を観察したところ、始原的な隕石によく見られる「コンドリュール」という丸い微粒子や「CAI」というカルシウム・アルミニウムが凝縮した鉱物などが見られないことがわかった。こうした特徴は「CIコンドライト」という炭素質隕石に最も近い。

その一方で、リュウグウ試料に含まれる粒子のサイズと質量から密度を求めたところ、平均して1282kg/m3という値が得られた。これは、CIコンドライトの平均密度(2120kg/m3)と比べてかなり小さい。仮にCIコンドライトと同じ密度の物質からリュウグウ試料の粒子ができているとすると、空隙率が46%となり、体積の半分近くが「すき間」だということになる。これは「はやぶさ2」の観測から推定されたリュウグウ全体の空隙率(30~50%)ともよく合っているという。

また、フーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)で試料の赤外線反射スペクトルを調べたところ、試料の反射率は2%ほどで、炭素質隕石の中で最も暗いCIコンドライトよりもさらに暗かった。C型小惑星と炭素質隕石の共通点と違いを、実際の天体の試料で確認できたのはきわめて重要な成果だ。

赤外スペクトル
第1回タッチダウンのA室試料(赤)と第2回タッチダウンのC室試料(青)の赤外反射スペクトル。黒は「はやぶさ2」の近赤外分光観測装置(NIRS3)で観測したリュウグウの反射スペクトル。2.7μmに水による吸収が見られ、3.1μm、3.4μm付近にも吸収が見られる(提供:JAXA)

-OH、-CH、-NH基のスペクトルを確認

リュウグウ試料の初期記載作業では、フランス宇宙天体物理学研究所で開発された赤外分光顕微鏡「MicrOmega」でも分析が行われた。この装置は試料の分光と高解像度の撮像を同時に行えるため、顕微鏡画像に映っているどの粒子にどんな成分が存在するかをピンポイントで知ることができる。

FT-IRとMicrOmegaによる分光分析では、波長が2.7μmの領域に強い吸収、3.1μm、3.4μmの領域に弱い吸収が見られた。

  • 2.7μmの吸収帯は水などの-OH基が存在することを示しており、フィロケイ酸塩などの含水鉱物によるものと考えられる。
  • 3.1μmの吸収帯は-NH基の吸収で、NH4ケイ酸塩やNH4水酸化塩などの窒素化合物を含む有機物だと考えられる。
  • 3.4μmの吸収帯は-CH基による吸収で、スペクトルの詳しい特徴から、脂肪族炭化水素の中でも炭素の鎖が長い分子を含んでいると推定されている。

また、MicrOmegaによる分光撮像で、直径0.5mm程度の比較的大きな炭酸塩や水酸化塩の粒子も見つかった。炭酸塩や水酸化塩はリュウグウの物質が過去に液体の水による変質(水質変成)を受けたことを示すもので、注目すべき結果だ。

これらの結果から、リュウグウは太陽系ができた当時の始原的な物質を豊富に含む一方で、様々な度合いの変成を受けた物質も混ざっていることが明らかになった。

水酸化塩
A室試料に含まれていた-OH基を豊富に含む水酸化塩の粒子(a)、C室試料に含まれていた-NH基を豊富に含む粒子(b)の画像と、それぞれの赤外反射スペクトル。aの画像はR:2.5μm、G:3.2μm、B:3.6μm、cの画像はR:2.5μm、G:3.05μm、B:3.4μmの3波長の赤外線画像から合成した擬似カラー画像。画像クリックで表示拡大(提供:MicrOmega/IAS/CNES/JAXA)

炭酸塩
A室試料に含まれていた炭酸塩の粒子の画像と赤外反射スペクトル。画像はR:2.5μm、G:2.7μm、B:3.4μmの3波長の赤外線画像から合成した擬似カラー画像。画像クリックで表示拡大(提供:MicrOmega/IAS/CNES/JAXA)

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