すばる望遠鏡の次世代分光器が夜空のスペクトルを観測

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すばる望遠鏡で2023年から運用される予定の超広視野多天体分光器の一部を使い、本番の観測において除去すべきノイズとなる夜空のスペクトルを取得する試験観測が行われた。

【2021年4月27日 すばる望遠鏡

すばる望遠鏡では2023年から、次世代の基幹観測装置の一つ「超広視野多天体分光器 PFS(Prime Focus Spectrograph)」の運用開始を目指している。PFSなどで実施される、天体のスペクトルをとらえる分光観測では、大気中のヒドロキシ基(OH)やオゾンが発する「夜光(やこう)」も宇宙からの光と一緒に装置で検出されてしまうため、これを見積もってノイズとして取り除く必要があるが、夜光の強さは時間とともに変化し、観測する空の場所によっても違うので、取り除くのは簡単ではない。

PFSを構成する4つのシステム
PFSを構成する4つのシステム(提供:PFS Project/Kavli IPMU/NAOJ)

今年2月11日、PFSの一部を使った試験観測が実施され、夜空のスペクトルを取得することに成功した。

PFSは、すばる望遠鏡が集めた光を視野約1.4度の「主焦点装置」で受け、この中で2400本の光ファイバーが観測したい天体の位置に合わせて配置される。天体の光は全長55mの「ファイバーケーブルユニット」を通って、赤・青・近赤外線の3台のカメラで波長380~1260nmのスペクトルを一度に取得する「分光器」へ送られる。そして主焦点装置内部での光ファイバーの位置は「メトロロジカメラ」で常時監視される仕組みだ。

光ファイバーは全部で4本のファイバーケーブルユニットにまとめられて分光器へ送られるが、2月に1本目のファイバーケーブルユニットが敷設され、今回の試験観測に使われた。ファイバーケーブルは望遠鏡の鏡筒とドーム棟内に張り巡らされるが、望遠鏡が動いたり気温が変化したりすることで光ファイバーに変形などの負荷が掛かると、天体の光を正しく分光器へ伝えられない。そのため、光ファイバーをチューブにまとめたり、負荷を和らげるためのスペースを設けたりするなどの工夫がファイバーケーブルユニットに施されている。

ファイバーケーブルユニットの構成図
ファイバーケーブルユニットの構成図(提供:PFS Project、以下同)

今回の試験観測では、すばる望遠鏡の主鏡ではなく、主焦点の近くに取り付けられた口径4cmほどの試験用の小型望遠鏡「SuNSS(Subaru Night-Sky Spectrograph)」で夜空の光を集め、ファイバーケーブルを通じて分光器へ送った。PFSの主焦点装置がすばる望遠鏡に設置されるまでは、このSunSSによる夜光の調査を続け、データをPFSの画像処理ソフトウェアの開発に反映させる予定とのことだ。

試験観測で取得された夜空のスペクトル
試験観測で取得された夜空のスペクトル。(上段)分光器内のCCD検出器で得られた元画像。(左)「青」カメラ、(右)「赤」カメラ。(下段)解析ソフトウェアを用いて抽出されたスペクトル。(左図)「青」、「赤」2つの画像から抽出したスペクトルを結合。赤線1本1本が大気にあるヒドロキシ基などからの輝線(※図の縦軸は相対的な明るさ)。(右図)波長870~915nmの波長域(左図の青枠で囲まれた部分)を拡大したスペクトル。緑色の線はOHの理論上の波長を表す。画像クリックで拡大表示

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