イトカワにあった「ひげ状金属鉄」、月の砂からも発見

このエントリーをはてなブックマークに追加
小惑星イトカワのサンプルから見つかっている「ひげ状金属鉄」が、アポロ計画で回収された月の砂からも見つかった。太陽風との反応で形成されたとみられる。

【2021年3月10日 九州大学

50年間見過ごされていた結晶が、月と小惑星の表面で共通の現象が起こっていることを物語った。

この結晶とは「ひげ状金属鉄」で、硫化鉄の表面から、その名の通りひげのように伸びている金属鉄だ。探査機「はやぶさ」が回収した小惑星イトカワの砂から初めて見つかった(参照:「イトカワで発達した金属鉄のひげ状結晶」)。硫化鉄は太陽系小天体によく含まれている鉄と硫黄の化合物である。

イトカワのひげ状金属鉄を見つけた九州大学の松本徹さん、野口高明さんたちの研究グループは、水素などを含む太陽風が硫化鉄に当たると硫黄が取り除かれ、残った金属鉄が結晶に成長するのだと考えた。そこで、松本さんたちはアポロ11号と17号が持ち帰った月の砂を分析し、同様のひげ状金属鉄が含まれていることを発見した。この結晶は、大気のない太陽系天体に共通して生じるものとみられる。

ひげ状の金属鉄結晶
月の砂の硫化鉄と、ひげ状の金属鉄結晶(電子顕微鏡擬似カラー画像)。矢印で示した金属鉄のひげ状結晶(青)が硫化鉄(紫)の表面に成長している。硫化鉄は太陽風ガス(水素やヘリウム)が蓄積し、発泡したため穴だらけ(多孔質)になっている(提供:九州大学リリース)

月の砂に含まれる硫黄は、岩石中の硫黄よりも重い同位体の割合が多い。軽い同位体の方が飛ばされやすいので、月の砂には太陽風などによって硫黄を奪う作用が生じていることは以前から予想されていた。今回の発見は、これを初めて鉱物学的に裏付けるものである。硫化鉄から失われた硫黄の多くは月の重力を振り切って宇宙へ飛ばされるが、一部は月面を旅して氷の中に閉じ込められる可能性があるという。

「アポロ試料の分析が始まって50年以上の間、世界中の研究者が気づかなかった結晶を見つけ、月面の科学を前進させることができました。この研究では、小惑星イトカワの粒子に対する長年にわたる研究が役立ちました。「はやぶさ2」が届けた小惑星リュウグウの砂の歴史を知る上でも、ひげ状金属鉄は重要になります」(松本さん、野口さん)。