2025年9月8日の未明から明け方にかけて皆既月食が起こります。日本で見られる皆既月食は2022年11月以来、約3年ぶりです。
夜遅い時間帯なので、現象の時刻をよく確かめて、観察場所の下見もしっかりしたうえで楽しみましょう。
目次
月食の見え方
全過程は1時30分ごろ~5時前まで、
食の最大は3時12分
東京で見た月食の様子。囲み内は月の拡大像(正立像)(ステラナビゲータでシミュレーション)。
今回の月食は8日の未明から明け方に起こります。8日の夜(宵)ではなく「7日深夜から日付が変わり8日になった時間帯」ですので注意しましょう。
1時27分ごろ、南西の空に見える満月が地球の影(本影)に入り、月食(部分食)が始まります。
その後、月は高度を下げながらだんだんと欠けていきます。そして部分食開始から約1時間後の2時31分ごろに月全体が地球の影に入り、皆既食の状態となります。地球の影に最も深く月が入り込む食最大の3時12分をはさんで、約82分間、皆既状態が続きます。
3時53分ごろに皆既食が終了すると、月は再び明るさを取り戻していきます。そして約1時間後の4時56分、満月が西の地平線近くまで低くなったところで、部分食も終了します。
全国どこでも同時に起こる
月食は、月が見える場所であればどこでも同時に起こります。日食のように観察地によって時刻が変わるということはなく、全国どこでも(日本以外でも)同じタイミングで始まって終わります。また、同じ時刻で見れば欠け方も同じです。
ただし、同じ時刻であっても月が見える方位や高度は異なります。とくに東日本では、食の後半から終わりには月がかなり低くなるので、西の空の開け具合や建物の様子などを事前に確認しておきましょう。薄明開始時刻や日出時刻も異なるので、食後半は空の明るさにも違いがあります。
福岡・東京・札幌での見え方。月の高度や空の明るさなどは異なるが、欠け方は同じ(ステラナビゲータでシミュレーション)。
- 時刻の出典:NASA Eclipse Web Site
- ΔTの値を69sとして再計算しています。
- 国立天文台 暦計算室の予報とは微妙に時刻が異なりますが、これは地球の影の大きさをどう見積もるかの違いによります。
地球には大気があるため、影の境界はシャープではありません。開始・終了時刻は目安とみておくのがよいでしょう。
- 部分食の前後には「半影食」(» 解説)という現象があり、月がわずかに暗くなっていますが、眼視ではわかりにくい状態です。
月の色に注目
空の明るさや色にも注目
皆既食になるまでは、月が欠けていくにつれて月明かりが弱まるため、空が暗くなっていきます。3等星4等星といった暗い星々の見え方が変わるので、注意して観察してみましょう。
また、食の後半から終わりにかけては夜明けが近づくので、空がどんどん明るく青っぽくなっていきます。月の色そのものの変化ではありませんが、欠けた月を「暗い背景」で見るのと「明るく青っぽい背景」で見るのとでは感じ方が変わるでしょう。
月食に伴う空の明るさの変化、夜明け空の移り変わりに影響を受ける月の印象など、月そのもの以外にも目を向けて、月食を広くお楽しみください。
月食を見る、撮る
月食観察のポイント
月の色や形が変化していく様子は肉眼でもよく見えるので、月食観察に特別な機材はいりません。ふだん月を見ているのと同じように、空を見上げるだけで月食を楽しめます。「月の模様や変化をじっくり眺めたい」という場合には、双眼鏡や天体望遠鏡を用意しましょう。アストロアーツのオンラインショップで様々なグッズを取り揃えているので、ぜひチェックしてみてください。
- 車の往来や足元を確認するなど、安全にじゅうぶん注意しましょう。
- 子供だけで観察したり、少人数で暗いところに行ったりしないようにしましょう。
- 私有地への立ち入りや大騒ぎすることは厳禁です。ルールやマナーを守りましょう。
月食のスケッチ例(提供:早水勉)。色鉛筆は茶やオレンジだけでなく様々な色を用意しておこう。画像クリックで「皆既月食スケッチ用紙」(pdf作成:石田智)を表示。
観望会やインターネット中継
今回の月食は夜遅い時間帯の現象ですが、公開天文台や科学館などで特別に観望会(観察会、観測会)が開催されるかもしれません。全国プラネタリウム&公開天文台情報ページ「パオナビ」などで、実施状況や申し込み方法を調べましょう。
残念ながら当日曇ってしまったり外に出られなかったりして見られない場合には、インターネットのウェブ中継などで楽しむ方法もあります。複数地点の中継を見ると、月食はどこでも同時に起こり同じように進行することが実感できます。
撮影のポイント
月や月食をきれいに撮影するコツは、露出やシャッター速度などを調整して取り入れる光の量を上手くコントロールすることです。欠けている割合が小さく月が明るい時には光量を少なくし、反対に大きく欠けている時は暗すぎるので多くの光を取り入れるようにします。天体写真ギャラリーなどを参考にしてください。
2022年11月8日の月食の経過。ステラナビゲータで事前に構図を調べておくと便利(撮影:百海正明さん)。
- スマートフォンのカメラでも月の色や明るさの変化は写りますので、手軽な記念撮影としてはじゅうぶん楽しめます。
- コンパクトデジタルカメラでは夜景モードやマニュアルモードに設定し、シャッタースピードを調整しましょう。月が明るい時には速めの(短い)、暗い時には遅めの(長い)露出にします。オートモードしかない場合は明るい前景を入れると露出を短くできることがあります。
- 望遠レンズや望遠鏡を取り付けて月を大きく写すなら、デジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラを三脚に載せて撮影するのがおすすめです。必要に応じて赤道儀も使用しましょう。
天体撮影ソフト「ステラショット」では、欠け具合に応じて露出を自動的に補正することもできるので、たいへん便利です。 - 多重露出による月食の連続写真も面白いものです。適当な時間間隔ごとに撮影したものを画像処理ソフトで合成すれば、食の経過を記録した画像が簡単にできあがります。
天体撮影ソフト「ステラショット」で月食を撮影。撮影間隔などの基本設定だけでなく、露出を段階的に変化させるブラケットや、欠け具合に応じて露出を長くする補正も行うことができる。画像クリックで表示拡大。
月食の仕組み
月食が起こる理由
宇宙空間では、太陽に照らされた地球の後ろ側(夜の方向)に地球の影が伸びています。地球の周りを回る月がこの影の中に入ってくると、月面にその影が落ち、月食が起こります。このとき太陽‐地球‐月は一直線に並んでいますから、月食は必ず満月のタイミングで起こります。
しかし反対に、満月のときに毎回月食が起こるわけではありません。これは、月の公転軌道が地球の公転軌道(つまり、地球の影の中心が位置する場所)に対して5度ほど傾いているからです。この傾きのため、満月はたいてい地球の影の上下(黄道面の南北)にずれます。このずれの量が小さいときには地球の影と月が重なるので、月食となって見えるわけです。1年間では2~5回の月食が起こりますが、ほとんどの年は3回以下です(2020年や2027年のように半影食しか起こらない年もあります)。
ところで、月食のとき太陽‐地球‐月が一直線に並んでいるということは、月から観察すると太陽と地球が重なって見えるので、月では地球による日食が起こっています。アルテミス計画で再び人類が月に降り立てば、そこから日食を見ることがあるかもしれません。
今回の皆既月食時に、月(探査機「スリム」着陸地点)から見た太陽と地球の様子(ステラナビゲータでシミュレーション)。
月食の時に満月が赤くなる理由
皆既食や深い部分食のときには月全体(または大部分)が地球の影の中に入っているので、月がほとんど見えなくなってしまうように思います。しかし実際には、赤っぽい色になった満月を見ることができます。これはなぜでしょうか。
地球の大気の中を太陽光が通過するとき、その光は大気によって曲げられて(屈折して)月まで届き、ほんのりと月を照らします。このとき、光の成分のうち波長の短い青い光は大気に散乱されるためほとんど月まで届きません。一方、波長の長い赤い光は散乱されにくく、月まで届いて月面を照らします。このため、月は真っ暗になることはなく、赤っぽい色に見えるのです。大気中の塵や水蒸気の量によって、非常に濃い茶色や赤色のように見えることもあれば、明るいオレンジ色のように見えることもあります。
また、「ターコイズフリンジ」と呼ばれる欠け際の青い部分が見えることもあります(撮影するとわかりやすくなります)。先ほどの説明とは反対に、赤い光のほうが地球大気のオゾン層に吸収されて届きにくくなり、青い光の一部が月に届いている部分と考えられています(詳しくは「星ナビ」2021年11月号参照)。
月食の種類
地球の影の大きさ(見かけの直径)は、月3個分ほどです。この影の中に月が全部入ってしまう状態を「皆既食」と呼び、そのような皆既状態が見られる月食を「皆既月食」と呼びます。月が地球の影の中心に近いところを通れば皆既状態が長く続くことになり、今回は約82分です。
また、月の一部だけが地球の影に入っている状態は「部分食」で、月食全体を通じて部分食しか見られない月食を「部分月食」と呼びます。皆既食の前後にも部分食が起こっていて、月が地球の影の中を動いていくにつれて白い満月→部分食→皆既食→部分食→白い満月、と変化していきます。
さらに、地球の影(正確には「本影(ほんえい)」)の外側には一回り大きな「半影(はんえい)」が広がっていて、この半影の中に月が入っている状態を「半影食」と呼びます。半影は薄いので、半影食のときに月が暗くなっている様子は眼視では気づきにくいかもしれません。写真で記録するとわかりやすいでしょう。
※月食全体としては皆既月食でも、観察場所によっては皆既食中の月は地平線の下にあって見えず、その場所からは部分月食となる場合もあります。同様に、皆既月食や部分月食であっても場所によっては半影食しか見えない(半影月食となる)こともあります。
今回の月食の、地球の影に対する月の動き(ステラナビゲータでシミュレーション)。
近年の主な月食
2021年から2030年まで掲載(半影食のみの現象は含みません)。
食最大の日時 (日本時) |
部分食時間 皆既食時間 |
備考 |
---|---|---|
2021年 5月26日 20時19分 |
187分 15分 |
スーパームーン。北海道西部~中部地方以西では月出帯食 |
2021年11月19日 18時03分 |
208分 --- |
山形~福島以南では月出帯食。皆既食が起こらない部分月食としては1901~2200年で最長 |
2022年 5月16日 13時12分 |
207分 85分 |
日本からは見えず(大西洋方面) |
2022年11月 8日 19時59分 |
220分 85分 |
同時に天王星食も起こった |
2023年10月29日 5時14分 |
77分 --- |
|
2024年 9月18日 11時44分 |
63分 --- |
日本からは見えず(大西洋方面) |
2025年 3月14日 15時59分 |
218分 65分 |
日本からは北日本で部分月食の月出帯食(南北アメリカ方面) |
2025年 9月 8日 3時12分 |
209分 82分 |
今回 |
2026年 3月 3日 20時34分 |
207分 58分 |
|
2026年 8月28日 13時13分 |
198分 --- |
日本からは見えない(南北アメリカ方面) |
2028年 1月12日 13時13分 |
56分 --- |
日本からは見えない(南北アメリカ方面) |
2028年 7月 7日 3時20分 |
141分 --- |
東北、北海道では月没帯食(インド洋方面) |
2029年 1月 1日 1時52分 |
209分 71分 |
|
2029年 6月26日 12時22分 |
220分 102分 |
日本からは見えない(大西洋方面) |
2029年12月21日 7時42分 |
213分 54分 |
日本からは部分月食の月没帯食(ヨーロッパ、アフリカ方面) |
2030年 6月16日 3時33分 |
144分 --- |
中部地方より東では月没帯食(インド洋方面) |