観測史上最も遠いクエーサーを発見

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ビッグバンからわずか6億7000万年後の宇宙に存在する、観測史上最遠のクエーサーが見つかった。太陽の約16億倍の超大質量ブラックホールが存在するとみられる。

【2021年1月18日 アルマ望遠鏡

今回発見されたクエーサー「J0313-1806」はエリダヌス座の方向にあり、赤方偏移の値がz=7.642と測定されている。これは、光路距離(天体から出た光が地球に届くまでの間に旅した距離)に直すと約131億光年となる。つまり、宇宙が誕生してから約6億7000万年しか経っていない時代にこのクエーサーは存在している。これは、2018年に発見された「J1342+0928」(z=7.54) の記録を更新し、クエーサーとしては観測史上最遠となる。

J0313-1806の想像図
今回発見されたクエーサーJ0313-1806の想像図(提供:NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva)

J0313-1806を発見したのは、米・アリゾナ大学のFeige Wangさんを中心とする研究チームだ。今回のクエーサーはzが7.5を超えるものとしては史上3個目となるが、第2位のJ1342+0928や第3位の「J1007+2125」(通称「ポニウアーエナ」、z=7.52)もWangさんたちが発見したものだ(参照:「ビッグバン7億年後に存在していた怪物級ブラックホール」)。

Wangさんたちは、過去に様々な望遠鏡で行われた可視光線・赤外線での大規模サーベイ観測のデータを使い、可視光線では見えないが赤外線では見える天体を探した。これによってJ0313-1806は超遠方のクエーサー候補としてピックアップされ、チリのジェミニ南望遠鏡の観測で確かにクエーサーであることが確認された。その後、米・ハワイのジェミニ北望遠鏡やケック望遠鏡の分光観測、さらにチリのアルマ望遠鏡を使った電波観測によって、このクエーサーの赤方偏移が正確に求められ、中心にある超大質量ブラックホールの質量が太陽の約16億倍であることも判明した。このブラックホールは、2番目に遠いJ1342+0928の中心ブラックホールより約2倍も重い。

今回の発見は、宇宙の初期に超大質量ブラックホールがどうやってできたかを考える上でかなり重要な情報になる。現在考えられている巨大ブラックホールの成長モデルから見積もると、宇宙誕生から6億7000万年後に16億太陽質量のブラックホールが存在するためには、宇宙誕生から約1億年経った時点で1万太陽質量ほどのブラックホール(巨大ブラックホールの種)ができていなければならないという。

一方、超大質量ブラックホールができるメカニズムとしては、巨大な恒星の超新星爆発でできたブラックホール同士が合体して生まれるという説や、大規模な星団が重力でつぶれて一気に超大質量ブラックホールになるという説などがあるが、いずれのモデルでも、今回のJ0313-1806の種となるブラックホールを初期宇宙で作り出すのはむずかしい。

「今回の結果は、ブラックホールの種がこれらの説とは別のメカニズムで作られたことを示しています。宇宙のはじめから存在していた大量の低温水素ガスの雲がつぶれることで、ブラックホールの種を直接作り出したのかもしれません」(アリゾナ大学 Xiaohui Fanさん)。

また、アルマ望遠鏡の観測から、J0313-1806を含む銀河(母銀河)が天の川銀河の200倍という非常に速いペースで星形成を行っていることや、中心ブラックホールが太陽25個分の物質を毎年飲み込んでいること、銀河中心部から電離ガスが光速の20%もの速さで噴き出していることもわかった。このため、この母銀河ではいずれ星の材料となるガスが尽きて星形成が止まると考えられる。

超大質量ブラックホールの激しい活動のために星形成が止まってしまった銀河は、後の時代の宇宙では数多く観測されているが、同じことがどのくらい昔の銀河まで起こっていたかについてはわかっていなかった。今回のクエーサーは、この現象がきわめて初期の宇宙でも起こっていた可能性を示唆するものだ。

「今回の例は、超大質量ブラックホールが母銀河にどう影響を与えるかを示す証拠としては最も早い時代のものです。もっと近い銀河の観測から中心ブラックホールが銀河に影響を与えることは知られていましたが、宇宙の歴史の中でこれほど早い時期に起こっているのをとらえたのは初めてです」(Wangさん)。

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