合体途中の巨大ブラックホールのペアをとらえた

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すばる望遠鏡の超広視野カメラ「HSC」の撮影画像から、激しく活動する2個の巨大ブラックホールが合体しつつある「二重クエーサー」が見つかった。

【2020年9月2日 すばる望遠鏡

銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍の質量を持つ「超大質量ブラックホール」が存在することが知られている。この巨大ブラックホールに周囲の物質が大量に流れ込むと「降着円盤」と呼ばれる円盤が作られ、高速回転する物質の摩擦熱できわめて明るく発光する。さらに、光速近くまで加速された荷電粒子のジェットを放出することもある。こうした激しい活動によって巨大ブラックホールが銀河全体をしのぐほど明るく輝いている天体を「クエーサー」と呼んでいる。

宇宙では2つの銀河が衝突したり合体したりする現象がしばしば起こるが、こうした現象は中心ブラックホールに物質が大量に落ち込む引き金となる。そのため、衝突・合体しつつある銀河では、2個の中心ブラックホールがともにクエーサーとして明るく輝く「二重クエーサー」が見られるはずだ。

しかし実際には、これまでに見つかっている二重クエーサーの数は理論予測よりもかなり少ない。2個の巨大ブラックホールが同時にクエーサーとして活動する期間が短いことが理由の一つだ。また、二重クエーサーを見つけるためには夜空の広い領域を探索しつつ、個々の銀河を非常に高い解像度で観測しなければならないというジレンマもある。

東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)のJohn Silvermanさんを中心とする研究チームでは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」で撮影された画像から、すでに知られている34,476個ものクエーサーをピックアップし、2個以上の点光源を持っているものを選び出した。HSCは直径1.5度(満月の3倍)という非常に広い視野を一度に撮影でき、しかも口径8.2mというすばる望遠鏡の性能を活かして、きわめて暗い天体までとらえることができる。

研究チームはデータ解析から、複数の光点を持つクエーサーを421個見つけた。これらをハワイのW. M. ケック望遠鏡やジェミニ北望遠鏡で分光観測したところ、このうち3個が確実に二重クエーサーであることが明らかになった。3個のうち2個は今回初めて二重クエーサーだと判明した天体だ。

二重クエーサーSDSS J141637.44+003352.2
今回見つかった二重クエーサーの一つ、おとめ座の「SDSS J141637.44+003352.2」。上段がすばる望遠鏡の「HSC」とジェミニ北望遠鏡で撮影した画像で、下段はケック望遠鏡とジェミニ北望遠鏡で得られた輝線スペクトル。スペクトルの線幅から、2個の巨大ブラックホールの周囲にあるガスがともに秒速数千kmで運動していることがわかった。また、2個のブラックホールの間隔は約1万3000光年、ブラックホールの質量はそれぞれ約2億太陽質量と約8000万太陽質量であることが明らかになった。画像クリックで表示拡大(提供:Silverman et al./Kavli IPMU)

「正直なところ、私たちは最初から二重クエーサーを探していたわけではありませんでした。明るいクエーサーがどういった種類の銀河に存在する傾向にあるのかを画像を使って調べているうちに、中心に点光源が1つしかないと思っていた場所に、2つ点光源がある場合が見つかり始めたのです」(Silvermanさん)。

研究チームは今回の観測結果から、宇宙に存在するクエーサーのうち約0.3%は、巨大ブラックホールを2個含んでいる合体途中の銀河だと推定している。割合としてはかなり少ないものの、こうした二重クエーサーは銀河進化の中で重要な段階にある天体だという。

「銀河中心の超大質量ブラックホールは銀河が合体することで『目覚め』、質量を増していきます。このことは、ブラックホールが属する銀河そのものの成長にも影響を与える可能性があります」(東京大学 Shenli Tangさん)。

今回の研究成果は、銀河や超大質量ブラックホールの成長を研究する上で、二重クエーサーを観測することが有効な手法になるという可能性を示すものだ。研究チームは今後も二重クエーサーを特定する作業を行い、銀河や巨大ブラックホールの合体や進化の謎を解き明かすことを目指している。

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