観測史上最遠、130億光年彼方の原始銀河団

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すばる望遠鏡などによる観測から、130億光年彼方の宇宙に12個の銀河からなる原始銀河団が発見された。現在知られている中で最も遠い原始銀河団であり、初期宇宙で原始銀河団が活発に星を作りながら成長していることも示された。

【2019年10月2日 すばる望遠鏡

現在の宇宙には、1000個程度の銀河が集まった「銀河団」が存在している。銀河団は宇宙で最も質量の大きな天体であり、銀河団同士はお互いにつながってさらに大きな構造である「宇宙の大規模構造」を作っている。このように銀河団は宇宙の構造の要であり、138億年という宇宙の歴史の中でどのように銀河団が作られてきたのかは天文学における重要な問題だ。

銀河団の形成起源に迫るため、その祖先と考えられる「原始銀河団」探しが行われている。原始銀河団は初期宇宙に存在する形成途中の銀河団で、10個程度の銀河が密集している。「原始銀河団がいつの時代からあったのかという疑問から、私たちは研究を始めました。その謎を解くためには、なるべく昔、つまり遠くの宇宙を調べる必要がありますが、原始銀河団は稀な天体でもあるため、簡単には見つかりません。そこで私たちは、広い視野を持つすばる望遠鏡の『ハイパー・シュプリーム・カム』を使って広大な領域の宇宙の地図を作り、原始銀河団の探査を行いました」(国立天文台 播金優一さん)。

すばる望遠鏡による探査の結果、播金さんたちの研究チームは12個の銀河が集まった原始銀河団の候補「z66OD」をくじら座の方向に発見した。さらにケック望遠鏡とジェミニ北望遠鏡による分光観測で、z66ODが129.7億光年先(赤方偏移z=6.6)の位置に存在することが確認された。「これまでの記録を約1億光年も塗りかえる、現在知られている中で最も遠い原始銀河団の発見です」(東京大学宇宙線研究所 小野宜昭さん)。

原始銀河団「z66OD」
原始銀河団「z66OD」の擬似カラー画像(すばる望遠鏡による3色の観測データを合成)。色の濃さは原始銀河団を構成する銀河の天球面密度を示す。各拡大図の中心にある赤い天体が原始銀河団に存在する12個の銀河。画像全体の視野は1辺が24分角(実スケールでは1.98億光年)、各拡大図の視野は一辺が16秒角(220万光年)(提供:国立天文台/Harikane et al.、以下同)

z66OD原始銀河団の12個の銀河の中には、2009年にすばる望遠鏡によって発見された巨大ガス雲天体「ヒミコ」がある。「ヒミコのような巨大天体は質量が大きいので、同じく質量が大きいと考えられる原始銀河団の中にいること自体は不思議ではありません。しかし、ヒミコが原始銀河団の中心ではなく、中心から5000万光年も離れた位置にいたことは驚きです。中心にない理由はわかっていませんが、銀河団と巨大銀河の関係を理解する上で重要な手がかりになると考えています」(ヒミコの発見者、国立天文台・東京大学宇宙線研究所 大内正己さん)。

研究チームはさらに、すばる望遠鏡、イギリス赤外線望遠鏡、NASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」の観測結果をもとに、z66ODの中で驚くほど激しく星が生まれていたことを発見した。宇宙年齢が8億年という時代の初期宇宙に、活発に星を作りながら銀河団へと成長する原始銀河団が既に存在していたことを示している。「z66ODの中の銀河では、同時代、同質量の他の銀河に比べて5倍もの星が生まれていることがわかりました。z66ODは質量が大きいため、星の材料であるガスが周りから大量に供給され、星の生まれる効率が高いのかもしれません」(伊・先端研究国際大学院大学 Darko Donevskiさん)。

「近年の観測により原始銀河団には、塵に覆われた巨大な銀河も存在していることがわかってきています。今回見つかったz66ODにはまだそのような銀河は見つかっていませんが、今後アルマ望遠鏡などの観測が進むと、そのような巨大銀河も見つかり、z66ODの全貌が明らかになるかもしれません」(国立天文台・早稲田大学 藤本征史さん)。