すばる望遠鏡FOCASに「面分光」機能が追加

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すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置「FOCAS」に「面分光」という新機能が加えられ、この6月から共同観測利用が始まった。

【2019年7月10日 すばる望遠鏡

すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置「FOCAS」は可視光線で高感度の観測を行う装置で、すばる望遠鏡が運用を開始した2000年から「撮像観測」と「分光観測」の2つを行っている。これまでに、おおぐま座のスターバースト銀河「M82」から吹き出す水素ガスの分布を高解像度でとらえたり(撮像観測)、史上最遠方(当時)にある銀河の確認で活躍したり(分光観測)と、数々の成果を挙げてきた。とくに分光観測モードでは、視野内にある50個ほどの天体のスペクトルを同時に撮影できる機能も備えており、FOCASを使うと多くの天体に対する統計的研究を効率的に行うことができる。

FOCAS
微光天体分光撮像装置「FOCAS」(提供:すばる望遠鏡)

基本的に、撮像観測ではスペクトル情報を得ることができず、分光観測では天体の広がりをとらえることができない。そこで、星雲や銀河など広がった天体の詳細研究のために、天体の各場所のスペクトルを得られる「面分光」という手法が開発された。面分光を用いると天体の各場所のスペクトルが一度の露出で得られるので、天体の場所ごとの物理状態の違いを詳細にくまなく調べることができるようになる。

FOCAS用の面分光ユニットは2010年から計画が進められてきており、この6月に共同利用観測がスタートした。「北天をカバーする大口径望遠鏡で、広い視野と広い観測波長を高い効率で面分光できる装置は、FOCASの面分光機能だけです」(英・ダラム大学 Russell Smithさん)。

FOCASの面分光機能で初めて得られた科学的データ
FOCASの面分光機能で初めて得られた科学的データ。(右)中央付近の拡大図で縦方向が波長方向。銀河の各場所のスペクトルが画像全面にわたって写し出されている。縦に伸びているのが銀河のスペクトルで、横に伸びているのは地球大気起源の輝線(提供:Smith et al.、以下同)

楕円銀河と遠方銀河、スペクトル
(左)簡易的解析して得られた楕円銀河のイメージ、(中央)楕円銀河の重力レンズ効果を受けている遠方銀河。楕円銀河の光を差し引くことで初めて見ることができた。(右)中央の画像内の青丸で示された領域のスペクトル。得られたスペクトル(青線)から天体の写っていない場所のスペクトル(オレンジ線)を差し引くと、天体だけのスペクトル(緑線)が得られ、遠方銀河起源の輝線がはっきりと見える。撮像観測では手前の銀河が明るすぎるため、このような天体の検出はできず、従来の分光観測では構造をとらえられなかった。画像クリックで表示拡大

「FOCASは20年近く使われている観測装置ですが、新しい機能を追加したり性能を向上させたりすることで競争力を維持する努力を続けてきました。今回、面分光機能が追加されたことで、FOCASを使って観測したいという人がさらに増えたことを嬉しく思います」(国立天文台ハワイ観測所 服部尭さん)。

「面分光機能を可能にする面分光ユニットには、高い加工精度を必要とする部品が必要でした。国立天文台先端技術センターの技術者の方々の多大な努力のおかげで、満足のいく部品を完成させることができました。米・ハワイに建設予定の大型望遠鏡TMTにも面分光機能を持つ装置が搭載される予定です。面分光研究が盛んになり、TMTのサイエンスにつながってくれれば嬉しいです」(国立天文台TMT推進室 尾崎忍夫さん)。

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