超遠方宇宙に見つかった大量の超大質量ブラックホール
【2019年3月18日 すばる望遠鏡】
太陽の100万倍から100億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールは、宇宙のいたるところに存在すると考えられている。しかし、宇宙初期の時代にも普遍的に存在するのか、そしてその個数密度はどれくらいかといった基本的な事はよくわかっておらず、世界中の研究グループが超遠方宇宙における超大質量ブラックホールの探査を進めている。
超遠方宇宙の超大質量ブラックホールを見つけるには、クエーサー(銀河中心に存在する活動的な超大質量ブラックホールが周囲の物質を飲み込む過程で非常に明るく輝く銀河核)を探すのが効率的だが、超遠方宇宙には非常に稀にしかクエーサーが発見されない。しかも見つかるのは現在の宇宙では珍しい、最重量級のブラックホールによる最も明るいクエーサーに限られていた。
愛媛大学の松岡良樹さんたちの研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC)」を用いて撮影された膨大な数の天体の中から、スペクトルの特徴を元にして83個もの超遠方クエーサーを発見した。いずれも地球から約130億年前の宇宙に存在する天体であり、従来知られていたクエーサーのわずか数パーセント程度の明るさしかない。現在の宇宙年齢(約138億年)のわずか5%ほどの初期宇宙に、普通程度の質量を持つ(最重量級ではない)超大質量ブラックホールが普遍的に存在することを示す初めての観測成果だ。
今回新発見された天体の一つ。130.5億光年の距離(130.5億年前の宇宙)に位置する超大質量ブラックホール(矢印の先にある赤い天体)(提供:国立天文台)
さらに別の候補天体のうち17個も超遠方クエーサーであることが確認され、計100個のクエーサーが発見された。過去の探査ではこの2割ほどに当たる最も明るいクエーサーしか検出されていなかったが、今回の成果により数が増え、クエーサーの個数密度は一辺10億光年の立方体ごとにおよそ1個ほどという見積もりが得られた。
初期宇宙で起こった宇宙再電離という現象を引き起こしたのは、これまで未検出だった多数の超遠方クエーサーからのエネルギーではないかとも考えられてきた。今回、多数のクエーサーが発見されたものの、宇宙再電離を起こせるほどの数は存在しないことが明らかとなり、クエーサーによる再電離の仮説は棄却されることになった。
「私たちが発見した多数のクエーサーに対しては、世界中の研究者によってこれから多面的な観測が行われ、詳細な性質が明らかにされていくことになります。また測定された個数密度や明るさの分布を数値シミュレーションの予測と比較することで、初期宇宙での巨大ブラックホールの形成・進化のプロセスに新たな知見を得ることもできるでしょう」(松岡さん)。
〈参照〉
- すばる望遠鏡:超遠方宇宙に大量の巨大ブラックホールを発見
- Princeton University:Astronomers discover 83 supermassive black holes in the early universe
- 論文:
- The Astrophysical Journal Letters:Discovery of the First Low-luminosity Quasar at z > 7
- The Astrophysical Journal:
- The Astrophysical Journal Supplement:Subaru High-z Exploration of Low-luminosity Quasars (SHELLQs). IV. Discovery of 41 Quasars and Luminous Galaxies at 5.7 ≤ z ≤ 6.9
- PASJ:Subaru High-z Exploration of Low-Luminosity Quasars (SHELLQs). II. Discovery of 32 quasars and luminous galaxies at 5.7 < z ≤ 6.8
〈関連リンク〉
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